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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
エリュシオンには、早瀬がいてくれる。
エリュシオンであたしはひとりじゃない。
早瀬も戦っている。
早瀬ならどんな困難な中にあっても、負けずに至高の音楽を作ってくれる。
あたしだって、こんな環境に負けないで、一緒に音楽を作り上げたい。
聴いているひとの心を奮わせられる音楽を。
変化をもたらし、前に進む力となる音楽を。
あたしは演奏者にはなれないけれど、あたしに音楽は楽しいものだと改めて気づかせて貰った早瀬の、その心にガツンとくる音楽を至高のものにしたいから。
だからあたしは、逃げるわけにはいかないんだ。
柚、戦え!
あたしは、分厚い名簿の冊子を両手で持ち――、
バアアアン!!
机を叩いて椅子から立ち上がると、周りを見渡した。
「静かにしなさい」
やけに落ち着いた、低い声が出た。
いつも音楽に関係ないことには、一方的に言われて終わりだったあたしが立ち上がったことに、唖然としている顔ぶれ。
「勤務中は私語を慎むように。それと藤岡くん。企画レポート再提出。誤字脱字が酷くて小学生並みよ。あたしにいいたい言葉があるのなら、まず辞書で調べて正しく書きだしてから、言って頂戴」
藤岡くんの顔色が変わるのがわかる。
「企画に誤字脱字は関係ない……」
「随分と提出した企画内容に自信があってお暇そうだけれど、こんな程度の企画ならあたしが既に書いて課長に却下されているから。『面白くない』ってね。企画に自信があるのなら、企画百本ノックいってみる? あたしが通った道なら、あなたにも出来るでしょう? あなたはあたしより有能みたいだから。課長にあげておくわ、課長に直接指導して貰って。ここにいる全員が証人よ」
「な……っ」
「それと早瀬とのことを邪推しているようだけれど、あたし、彼と同い年で同じ高校出身なの。今まであなた達には言ってなかったけれど」
「え……」
「その気安さが悪いのだと、早瀬に言っておくわ。早瀬はブス専だと思われているって。それでいいわね? 水岡さん、篠塚さん、笹さん、早川さん」
「え、いや……」
「その……」
わざと親密度を強調した苗字の呼び捨て。
女性陣は、面白いほど青ざめて震えている。