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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「それと、他の課の皆さん、お暇だというのなら、所属チーフに毎週のチーフ会議で伝えておきます。やる気がありすぎて、仕事を既に終えられてかなり暇そうだと。最低でも今までの倍、毎日残業ありの方向で勧めてみますね?」
にっこり。
笑うと、誰もが怯えた顔を見合わせている。
「い、いや……暇では……」
「たくさん、案件抱えてるので……」
「そうですか。では、皆さん。仕事に戻ってください。はい!」
パンと手を叩くと、誰もがしゅんとして自席に戻る。
あたしはそのままお手洗いへと進む。
足が震える。
女性用の扉を開けると、誰も居ない洗面台のところでしゃがみこんだ。
「……やった……」
あたしにしてはとても勇気がいること。
初めて踏み出した第一歩。
「撃退出来た!」
生理でぼぅっとしていたせいもある。
ぐちゃぐちゃ考えて呑み込まずに、反撃出来た。
「あたしも頑張れば出来るんだ」
ガッツポーズをしながら、嬉しくて泣いてしまった。
二十六歳、名だけのチーフ上原柚。
肩書きと早瀬を利用したけれど、初めてエリュシオンで大人の対応出来たと思う。
涙が止まらない。
二年間の積年の恨みはあったけれど、そこを我慢しながら出来たと思う。
嬉しい――っ!!
「くそ……あたし泣いてばっかりだ。あ、オリンピアのスパイじゃないと言い忘れた。ま、いいや」
化粧を直して目薬をさしてドアを出ると、早瀬が壁に背を凭れさせるようにして腕組をして立っていた。
「うわ、びっくりした。なんですか、ここ女子トイレですよ?」
すると早瀬は気怠げにこちらを見ると口端をつり上げるようにして笑い、ぽんぽんと頭の上に手を乗せて、そのまま行ってしまった。
「なんだったんだろう……」
謎の男、早瀬須王――。