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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
休憩を繰り返しながらプロジェクト会議は終わらず、あたしも残業しながら様子を見ていたのだけれど、休憩でげっそりとして出てきた課長の「帰りなさい」の一声に、帰ることになった。
茂、痩せれるね!
とも言えず、苦笑するあたしの後ろを早瀬が通り過ぎた。
「LINE……いや、電話するから」
……不意に耳打ちされた甘い声に、馬鹿なあたしはときめいてしまう。
会議の結果を教えてくれると、言ってるだけでしょうに。
力になれないことが口惜しい気がしながらも、全課課長からの命令でその他の社員は引き上げることになった。
地下鉄に乗った時、ふと思い出した。
「あれ、そういえば三芳親子どうしただろう」
まあ、いいや。
家に戻り、何日かぶりの家での自炊。
だけどあまり食欲がなくて、昆布と鰹ぶしで簡単に出汁をとって煮麺(にゅうめん)にした。
スーパーで安い時に素麺(そうめん)をまとめ買いしておいてよかった。
溶き卵と椎茸と刻んだネギを振りかけて、ふぅふぅして食べる。
食べ終わった最中に、電話が来た。
こんなに早く来るとは思わずに、慌ててバッグから取り出した。
画面には、見慣れない電話。
もしかしてプライベートの方でかけてきたのかと思って出たら、
『こんばんは。さっきぶり。体調は大丈夫?』
……朝霞さんだった。
「この電話は使われておりません」
『なんだよ、それ』
笑う朝霞さんの声が聞こえてくるが、懐かしいよりも警戒心の方が動いた。
「なんの御用でしょう」
『ん? 夕食のお誘い』
「もう食べました。お腹一杯です。では、失礼します」
ぷちっと切った。
恩人になんていうことをしたんだとちょっぴり良心が痛んだけれど、電話は懲りずにまた鳴った。
しばらく無視していたけれど、ずっと鳴り響いていて……仕方がなくとった。
「あのですね『酷いじゃないか、元上司に』」
「……朝霞さん、本当に変わっちゃったんですか?」
『それ判断してよ、直接会って』
……爽やかな声だ。
声だけ聞いていたら、HADESを自分のところのプロジェクトだと公開するような強引さは見えないのに。
昔ながらの優しくていいひとなんだけどなぁ。