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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「なにかあったんですか、朝霞さんやオリンピアに」
『どうだろうね』
「教えて下さい。亡くなった前社長の教え、あたしはいまだに守り続けてます。エリュシオンを守って欲しいという言葉を守るために、あたしエリュシオンに残ったんです。だけど……」
『黙ってくれない?』
朝霞さんのものとは思えない、冷たい声で。
「朝霞さん……」
『聞きたいのなら、俺と食事すること。明日の夕飯はどう?』
「……生憎予約が入ってます」
脳裏に早瀬が思い浮かんだ。
『警戒心強いなあ。……あいつのせい? 早瀬須王』
鋭い指摘に、言葉を詰まらせる。
『あいつより、俺……信用ないんだ』
僅かに悲哀の混ざった声音に、あたしはなにも答えられなかった。
『きみと音信不通になって、二年だ。まあ木場に行けば会えたんだろうけど、大見得切ってやめた身の上では、そこまでの度胸もなくてね。俺は、きみに会えて嬉しいよ。きみは違うようだけれど』
「……っ」
『……俺はね、きみが好きだったんだ』
「な……」
『ん、今も好きの方が正しいな。だから俺のところにおいで?』
あまりに自然に昔のように言うから、ただの好意の〝好き〟のように思えるのに、どこか艶っぽい声音はそれ以上のことを言っているようにも思えて。
『――なんてね、俺のこと、ちょっとは意識した?』
「な、冗談だったんですか! そうだとは思ったんですよ、キャラ崩壊してましたし!」
『あはははは』
昔のように冗談好きな朝霞さん。
どこにも変貌したようには見えないけど、女を勘違いさせる言葉を吐かなかった。ただひたすら優しく微笑んでいるひとで。
『上原、会いたい』
不意に声が真面目なものとなる。
「え……?」
『……俺を助けて』
「朝霞さん?」
『――なんてね、これも冗談』
笑う朝霞さんの声がなにか哀しそうで。
朝霞さん、事情があるんだろうか。
もしかして、力になれれば、元のオリンピアに戻れる?
そう思ってしまったあたしは――。
「……もし、朝霞さんとお食事に行ったら、話してくれます? なんでHADESを奪う事態になったのか」
『……』
「朝霞さん、あなたやオリンピアが困っていること、あたしにも聞かせて貰えますか?」
『……会ってくれるの?』
「場合によります」