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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
『……いいよ、上原なら。社長の理解者であった上原になら。いつが空いてる? 明日は?』
明日は金曜日だ。
次の日休日は、なにか嫌だ。
「だったら来週の月曜日のお昼」
『昼は駄目、夜』
「……じゃあ月曜日の夕食、ご一緒しましょう」
『ありがとう』
「ちゃんと話して下さいよ?」
『あはははは。じゃあね』
返事を避けるように、スマホは切れた。
まんまと夕食をとることになってしまったけれど、オリンピアがエリュシオンに喧嘩を売ったのなら、生半可な覚悟ではないはずだ。
HADESだけではなく、もっと沢山の横やりが入るかもしれない。
……早瀬の音楽も盗まれるかもしれない。
この関係を断ち切るために、朝霞さんと話をしてみよう。
昔の朝霞さんなら、あたしの話を聞いてくれる……はずだから。
――俺を助けて。
朝霞さん、なにか困っているんだろうか。
いろいろとあれこれ考え込んでいた時、訪問を告げるチャイムが鳴った。
相手の顔を確認出来るインターホンで見てみると、早瀬だ。
なんで、早瀬?
ピンポン、ピンポン、ピンポン!
なんだかこっちを睨んでる!?
「は、はい。な、なんで……」
『……入れろ』
「だ、だから、なんで……」
『入れろ!』
液晶画面越しに怒鳴られて、あたしはひぃぃとなりながらドアを開けた。
「どこ?」
「は?」
「いいわ、俺が行くから。あがるぞ」
早瀬はドカドカと中に入ってきて、三畳のキッチンと六畳のリビングと、四畳半の寝室のドアを開けて、浴室やトイレまで見渡し始めた。
「ちょ、なに、なんなの!?」
ベランダを開ける早瀬が、ぶっきらぼうに言った。
「あいつはどこ」
「あいつ?」
すると苛立ったように、早瀬がこちらを睨み付けて怒鳴る。
「朝霞だよ! オリンピアの社長!」
「いないですって」
「今は事後? まだ事前? 間に合った?」
「なにがですか!? なんで朝霞さんがうちに来ないといけないんですか」
「いねぇの?」
早瀬はまだ疑わしそうな眼差しで、上からあたしを見下ろした。