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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

「居るわけないじゃないですか! あたし、男性部屋に入れたことないんです。それをドカドカと一体なんですか!」

「ガセ……?」

 早瀬は嬉しそうに破顔すると、あたしをぎゅっと抱きしめて、耳元で言う。

「ごめん。何度もお前にLINEしても既読にならねぇし、電話すればずっと話し中で。イライラしてお前の家に来る途中、朝霞から電話が入って。お前の部屋にいて、今お前がシャワー浴びてると。合意でお前を抱くって」

 朝霞さん――なに嘘をつくんじゃ!!

「ありえないから! 本気でありえないし、あたし今生理中なんです! 貧血起こしたでしょう、今日」

「俺に抱かれたくねぇから、お前がそう言ったのかなと思って」

「……あ、そういう嘘つけばよかったんだ。いつも」

 思わず素直にそう吐露してしまうと、早瀬に頭上をぐりぐりされた。

「そんな嘘ついた日にゃ、365日ずっと抱く!」

「しません! しませんったら、ハゲる!!」

「ハゲデブじゃあるまいし」

「だからって……ハゲるってば!!」

 早瀬は笑いながら抱擁を解くと、身を屈むようにして、文句を言おうとしたあたしの唇に啄むようなキスをして、魅惑的な笑みを見せるから、文句も言えなくなる。
 
「なんだ、飯作って食ったんだ。麺類? 俺も腹減ったんだけど」

 流し目をくれて、含んだ笑いを向けてくる早瀬。

「俺、昨日も今日もお前の介抱したんだけど」

「………」

「今日の会食キャンセルして、今まで俺、会議中で珈琲しか飲んでねぇんだけど」

「………」

「これから店行くの面倒だし、かといって腹減りすぎて動けねぇんだけど」

「勝手に来たくせに……」

「ん? どうした、その目」

 じとりと見ているあたしのを目を見ながら、確信犯的な〝おねだり〟をされたあたしは、部屋に入ってしまった早瀬を、恩があるのに無下に追い出すことも出来なくて、ため息をついて言った。

「煮麺でよければ、すぐ作れますけど?」

「やった」

 子供のような笑みを浮かべる早瀬に、あたしも笑うしか出来なくて。

 ソファがあるのにベージュのラグの上に座る早瀬は、あたしの質素な部屋には不釣り合いで。

 物置に置かれた、高級フランス人形みたいな感じで笑えたけれど、あたしの領域に早瀬が入って来たことが、……いつも会っているはずなのに、やけに緊張した。

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