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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

 オリンピアがHADESプロジェクトを敢行しようとして、早瀬の存在如何によって、プロジェクトの知名度が変化する。

 早瀬の名前ひとつで売り上げも変わる……それが今の音楽界の常識のようになっており、早瀬を抱え込んだエリュシオンは、大きくなれたのだ。

 朝霞さんが、倒産をきっかけに前社長の教えを覆し、利益を求めるようになったとして、HEDESプロジェクトを盗んだというのなら、やりたかったのはエリュシオンに対する打撃なのか、早瀬個人を引き抜くためなのか、その両方なのかわからない。

 そこらへんの本音も、月曜日聞けるかな。

「……あなたは、エリュシオンに残ってくれるんですか?」

「当然だろう。愛情があるわけではねぇけど、盗まれたところに誰が行くか。俺が横浜で三芳親子を許せなかったのと同じ理屈だ」

 彼は所属会社よりも音楽に誇りを持っている。
 それがあたしには嬉しかった。

「それにエリュシオンには、俺のために単独啖呵切りに行って、貧血でぶっ倒れる無謀なチーフもいて、目を離せられねぇし?」

「……っ」

「なんだかひとり成長して、つらりとして社内の不和も収めてるし? どこでそんなスキル手に入れたんだか」

「黙って下さい!」

 見られていたらしい。

 ……早瀬の音楽のおかげで、あたしも変われる気がするとは、悔しいから言ってやらないけど。
 
「なぁ、これが元気の頃のアキ?」

 ぐつぐつ煮だつお鍋の隣で、ネギを包丁でトントンと切っていると、早瀬に聞かれた。

 振り返ると、あたしがいつも治癒のお祈りしている写真を手にして、テーブルの上で頬杖をついている。

「はい、そう「いい加減言葉遣い、直せ」」

「うん、そう」

 もうひとつのお鍋に入れているお湯が沸騰したから、素麺を入れる。

「……ふぅん? こいつモテる?」

「モテま……モテるみたい。家にも女のひと押しかけてくることがあったから。従妹だと言ったら嫌がらせされて、次に妹と言ったらお菓子くれて餌付けされたから、妹で通したけど」
 
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