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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice

「舌火傷したの。俺、ややネコ舌で」
「だったら飲み物……」
「いらね」
ネコ舌……ネコのようにうあたしの頬を、舌でぺろぺろする早瀬に、うごけないあたしはぎゃあぎゃあ騒いでいると、
「お前の方がネコみたい」
そう、笑った。
「美味いなあ、おまえの作ったの」
そう言いながら、つるつると麺を啜る早瀬は、あたしを見上げるようにしながら微笑む。
……あたし、いつもひとりで作って食べてきた。
美味しいとかいってくれるひとがいなかったから、正直嬉しくて。
「お、お口にあってよかった」
照れてしまい、目を泳がせる。
「毎日、食いてぇな」
「きょ、今日限りです」
「嫌だ」
「あなたは美味しいレストランとか知ってるんだから、そっち行って下さい」
「そっちもお前と行くけど、たまにはお前の作ったもの食いたい。お前んちまた来るから、色々作って」
「な、なんであなたに作らないと……」
「言葉遣いが戻る罰」
そう言い放って、また麺をつるつると食べていく。
「あちぃ」
と思ったら、今度はあたしの耳に舌を這わせて。
「へ、へんな動きしないでっ!!」
「してねぇって。昨日から我慢してるだろ、俺」
絶対我慢してないよね。
「だから今日も、お前の料理で我慢する」
今度はネコ舌関係なく、ちゅっとコメカミにキスが来た。
「……月曜、俺も行く」
何でもないというように、そう言ってまたつるつると麺を食べる。
「はあああ!?」
「……朝霞のガセに乗る方も乗る方だけど、ただ俺を振り回して楽しんでいるわけではねぇ気がするんだ。あいつのあの目は、揶揄ではなくなにか真剣なものがあったから。それがやけに気になる」
「どういうこと?」
「もしかして……俺を使ってなにかをしようとしているのかもしれねぇ」
「なにかとは?」
「例えば、……俺で守ろうとしているのかも。お前なのか、お前と朝霞が働いていた頃のエリュシオンなのか、別物か」
「え……」
「俺が来た時さ、ここの家の前に黒いボックスカーが停まってたんだ。それが俺がベランダから見下ろした時、いなくなった。それも気になってな。はい、冷まして」
レンゲですくったお汁をあたしに向けるから、反射的にふぅふぅ息をかけて冷ますと、早瀬は飲んだ。

