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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

「あの、もう離れて下さい」

「やだ」

「やだじゃなく」

「やだ」

「あのねぇ!」

「お前の真似」

 そうにやりと笑った早瀬は、あたしの唇を甘噛みしながら、舌を差し入れてあたしの逃げる舌を追いかけてくる。

 捕まって絡み合う舌からは、水音が響いて。
 あたしの部屋の中に、ベリームスクの匂いが充満する。

 あたしの部屋なのに、早瀬の痕跡を強烈に刻み込まれることに、拒絶感と歓喜とが半々となってあたしの胸にうずまく。

 ちゅぱっと音をたてて唇を離した早瀬は、濡れた唇をあたしの耳に押しつけるようにして囁いた。

「お前の匂いがたちこめるこの部屋にいたら、狂いそうになるくらいお前が欲しくなった」

 甘い、欲情したようなハスキーな声。

「今、絶賛理性がフル回転中。だけど暴走しそうで危ねぇな」

「……っ」

「このままなら、お前倒れたの忘れそうになるから帰る」

 いやらしい舌と唇があたしの耳をなぶって。

「早く元気になって生理終えれよ? 来週、金曜の夜からずっと抱き続けるから」

 早瀬の熱さと匂いに、頭がくらくらする。

「その顔……俺が欲しいっていうその顔で、俺に抱かれて。今度は後ろからじゃねぇからな」

 そう言い捨てると、また唇に深いキスをして……銀の糸を繋げたまま、早瀬はあたしをソファに座らせて、首元に吸い付いた。

「痛っ」

「朝霞の思惑がなんであれ、朝霞のところにひとりでは行かせねぇ。いいな、なにかあれば……、いやなにかがなくても、俺を呼べよ。思い出すのは、俺ひとりだけにしろ」

 その強い語調と強い眼差しに息を飲まれて。

「返事」

「……っ」

「ここで、お前抱くか? 血まみれになるのも「わかりました!!」」

 すると早瀬は嬉しそうにくしゃりとして笑うと、「後で電話する」と家から出て行った。


 早瀬がいなくなった部屋にあたしがひとり。

 なんだか寂しくて……あたしは自分自身を抱きしめた。





「あ、棗? ちょっと頼みたいことがあるんだけど。慣れた予感がしてさ、……アングラ(=アンダーグラウンド)の臭いを感じてる。お前が戻ったのも、そのせいなんだろ? だからまた仕事を依頼したい――」

 早瀬の声が闇に溶けた。


 

 
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