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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
~Asaka side~
薄暗い部屋。
銀の燭台に置かれた、三本の血色の蝋の炎が揺れている。
香ばしい肉が焼ける匂いと共に、どこか饐えたような動物的な匂いも混ざっている。
「御前、申し訳ありません」
俺が跪(ひざまづ)くその男は、優雅にナイフとフォークを動かして、分厚い肉を食べていた。
なんの肉かわからない。
人間の肉を食べててもおかしくない、残虐な男――。
「また失敗したのか。お前に言われて待って待って……ようやく熟したというのに、娘ひとり攫えぬとは」
テーブルの下、彼の両足の間には女が顔を埋めて、奉仕している。
ぴちゃぴちゃと、ここからが饐えた異臭の発生源だ。
「邪魔が入りました」
思った通り、男は激高した。
「なんと! お前は娘と知り合いなのだろう!? あんなに打ち解けておっても、誘い出すことも出来ぬのか」
……やはりまた、盗聴してたか。
「どうするつもりだ」
「来週、娘と会います。その時に必ずや」
「連れてこいよ」
「御意」
「お前の功績は、この真理絵から聞いておる。お前の手腕で金が……お……そこだ。うまくなったなあ、可愛い真理絵」
男が片手で笠井の頭を撫でたようだ。ここからは笠井の顔が見えないが、見えたからと言って気まずいだけだろう。
「真理絵が推挙したから、お前にしたのだ。あの娘に、この楽園に留める〝石榴〟を食わせ、私が地下世界を統べる。あの男ではない。……私を失望させるなよ」
「……御意」
何度目かの陰鬱な言葉を、無感情に吐き出した。
「要、取り逃がした罰を受けよ」
「御意」
俺は、食事中の男より目線を高くならないように気をつけて、口淫を受ける男の歓喜の声を背にして、屈強な黒服が立つ扉から出て行く。