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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
「上原チーフ自身の責任と自信で、素晴らしい人材を発掘して貰う。ということで、上原チーフを連れて、これから午後、日比谷公園に連れ出すことに、ご許可を」
「へ、へぃ」
茂、しゃっくりか?
「それと、私が連れ出す時は無条件で許可願いたい。なにせ、HADESプロジェクトの命運がかかっていますので。否というのなら、あなたにその責任を取って頂くことになる」
茂、焦りの蒸気で薄い毛が立ち上がる、立ち上がる。
このまま毛根から元気に立ち上がればいいね。
「許可下さいますか?」
「ひ、ひぃぃ……っ」
「ん?」
魅惑的な笑顔にある、凄絶な威圧感。
茂、ぶんぶんと頭を縦に振る人形と化す。
「では、そういうことで」
早瀬の言葉に、ふぅふぅ息をする課長から、ほっと安堵の空気が漏れた。
これで課長、早瀬の前でハ行をすべて口にしたことになる。
「HADESプロジェクト成功のために、育成課の方々もご協力下さい。上原さんも責任と自信を持って、一緒に頑張ろう」
ああ、馬鹿なあたしはようやくここで気づく。
早瀬の立ち回りの帰結にあるもの。
それは――。
「では今日彼女は直帰させて頂きます。残業は他の方に」
――今夜、八時。いつものホテルで。
「HADESプロジェクト成功のために、皆さんも協力下さい」
羨望と嫉妬の視線を浴びながら、あたしは思った。
奴のせいで、残業という逃げ場がなくなった、と。
早瀬は有言実行の男――。
そこまで、ヤリたいか!
あたしが逃げられないように外堀を埋めて固めただけではなく、壁を高く築いて、あたしを囲んだんだ。
「では、上原チーフ。早い時間だが帰り支度をして、すぐに出かけよう」
にやりと、意味ありげに笑うその顔は、憎々しいほどに王者の貫禄に満ち満ちていた。