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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
豪奢な屋敷は、西洋の古城を思い出させる。
金をかけているのがよくわかる、古さを良しとした陰鬱極まりない屋敷は、どんなに絶叫が響いても周りに漏れることがない。
その中で俺が向かう場所は、拷問部屋だ。
俺は、再会した上原を思い出す。
彼女には、変わり果てた俺を見せたくない。
たったひとり、俺の恩人の遺志を継ぐ彼女には。
彼女が、闇に堕ちたオリンピアに来なくてよかったと、言ってやりたかったけれど。
偶然聞いてしまった〝計画〟。
俺が抑えても動き始めてしまった時に、彼女から飛び込んできた。
昔より愛らしく、女の色香をうっすらと漂わせる彼女。
彼女は、早瀬によって花開いたのか。
恐らく、昔彼女が酔った時に口にしていた〝スオウ〟とは、早瀬須王なのだろう。彼女が早瀬と同じ高校出身だということは、調査でわかっている。
そして彼は――。
奇しくも、早瀬須王が上原と特別な仲だとは思わなかったけれど。
だけど彼なら。
だからこそ彼なら。
初対面の俺を真っ直ぐに睨んだ早瀬のあの目の強さに、俺は、御前を凌ぐ覇者の風格を見いだしたのかもしれない。
彼が上原のために身体を張るかどうかは、俺の試しでわかった。
頭も切れる。ただの顔だけの男ではなさそうだ。
彼ならきっと、こんな三文芝居の奥にあるものを見抜く。
彼女を拉致しようとする動きがあったから、俺は彼を動かした。彼なら、きっと上原の家に入ることが出来るだろうと思ったから。
怪しい動きは、俺の管轄外のもの。彼らが何者かはわからないけれど、俺が彼らを抑えられないのなら、彼女が懇ろにしている男の姿を見せつけることによって、引かせるだけ。
次はいつ来るかわからない。
願わくば、俺に入る情報が先であるように。
俺は信じる。
早瀬須王が、この狂った死者の墓場たる冥府を制し、ペルセポネーである上原を守ることを。
彼女に、地下に残らねばならない石榴を食べさせるな。
彼女は、日の当たるところが相応しいのだから。
鞭が俺の身体を切り裂く。
「早瀬、上原を守れよ」
しなる鞭。
俺は……痛みに声を上げながら笑った。
この、出口のない地獄の中で――。