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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
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朝七時――。
早瀬の車が迎えに来て、電話の合図で下に降りると、黒い外車が停まっている。
「おはよ」
窓を開けて出てきたのは、眼鏡姿の麗しい王子様の顔。
涼やかで爽やかなのに、微妙に気怠い感じが、色っぽくて。
――いいか、言葉遣いを戻せよ。戻さなかったら、公開処刑だから。
ぞっとする脅しをしてくれたおかげで、なにか強張った顔で笑う。
「おはようご……ざる」
「なんだよ、それ」
ちょいちょいと指を振ってあたしを呼び寄せれば、顔を下げて見下ろしたあたしの唇に、顔を上げて朝のキス。
「なっ、朝っぱらから公衆の面前でなにしてるのよ、このエロ男!!」
思わず、びしぃぃぃっと指を突きつけて叫ぶと、悪気なさそうな顔で早瀬は笑う。
「一応、虫除けと自己主張?」
「はああああ!?」
「べた惚れな彼氏の」
「ふり」と小さく言い、目を固定して瞳だけを別の方向に向けてあたしを促すと、ブロロロロと音がして、なにか黒い車が過ぎ去った気がする。
「乗れ」
鋭い眼差し。声の調子が変わり、慌ててあたしは反対側に回り込んで、助手席に乗ってドアを閉めた。同時に車がゆっくりと動く。
今さらだけれど、早瀬の運転は上手だと思う。
運転手の気分が損なえば荒くなるものの、高級外車だということを忘れれば、お年寄りでも安心して乗れるんじゃないだろうか。