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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「今夜からなんだが、お前、青山の俺のスタジオで寝泊まりしろ。俺もそっちから会社に通うようにする」
「へ?」
――俺もそっちから会社に通うようにする。
待て待て待て!
「ひとつ屋根の下……同棲!? それはちょっと……」
思わず身体を早瀬からそらすようにして、ドアに張り付いた。
「はは。同棲か。そこまで考えてなかったが、それもいいな」
「よくないって! 嫁入り前の娘がそんないやらしい……」
ぶるぶると身震いしたら、早瀬が笑う。
「お前いつの時代の人間だよ」
頑なに家に男を入れなかったのは、実は細かい亜貴のせいでもある。
最初物騒だからと中々一人暮らしを認めてくれなかった亜貴は、家に男を入れないという約束で許してくれたのだ。
亜貴はかなり古風な男で、料理もきちんと出汁の取り方からなにから、料理のいろはを教えてくれたから、一人暮らしをしても自炊に困ることはない。
「……別に、相手が同じならいいだろ」
昔を思い出していたら、早瀬の言葉を聞き逃した。
「なにか言いました?」
「……聞けよ! なんでそういう時はお約束で……ああ、これは今はいい。よくはねぇけど後回し。後回しと言っても、そこまで後にはしねぇけど、今は先にやることがある。……いや、こっちが先か?」
……なにについて、こんなにぶちぶちと言っているんだろう。
「とにかく、念のためだ。俺のスタジオなら、セキュリティーがしっかりしてるし、人通りに面してる。俺の会食が今夜七時からになっちまって、これ昨日延期させた手前抜け出せねぇから、とっととすませて帰って来るが、その間誰かつけるわ」
「要らないって、そんな大事にしなくても……」
「駄目だ。小林も格闘系いけるし、裕貴も金曜の今日テスト終えたら、月曜から高校休みになると言ってたし、打ち合わせも必要だったから、全員呼ぶか。……小林の嫁、苦手だけど後で電話するとして……」
「打ち合わせ?」
「お前のことと、音楽のこと。営利目的なエリュシオンでどうなるかわからねぇけど、HADESのコンセプトで、俺が信頼出来る奴らで安心出来る場所で進めようと思ってる。あのスタジオなら機材もみな揃ってるし、足りねぇようならまた小林のところから持ち出してもいいし」