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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「裕貴くん、大丈夫かな。いきなりの大役……」
「あいつは度胸がある。口はうるせぇけどやるときゃやるし、場数踏ませねぇとあいつも伸びねぇ。あいつの柔軟性あるギターの音は好きだし、音楽界に出ている奴を使うと、いつ情報が漏れてオリンピアや他のところにかっ攫われるかわからねぇしな。だから名がなくてもいいんだ。俺が信用出来る音を出せる奴がいれば、アマでいい。それでいく」
昨日、裕貴くんからLINEが来た。
『柚、また会おうね』
そのひと言は、早瀬になにか言われた後だったんだろうか。
「どうしてもHADESプロジェクト、世に出したいんだ」
「当然。やると決めているのに、不条理な横やりでやめてたまるか。そんなものに屈しねぇよ」
完璧主義の有言実行で有名になった王様なら、どんな逆境でも自分の力で切り抜けそうだ。
「小林さんのドラムも上手いの?」
「ああ。大学時代、音楽……ギターの勉強にと、色々なライブハウスに顔を出してて、あいつのパワーがあるのに正確なリズムに惚れ込んで、バンド組ませてくれと頭を下げた。あいつが結婚してスタジオ開くまでの三年間、バンド組んで仲良くしていた。今でも年末に一回、ライブをしてる」
早瀬と再会して二年目。
そんなことをしていたなんて初めて知った。
知ろうとも思わなかった。
いつもすました涼しい顔で、余裕に満ちていたから。
そんな人間的な部分があるのを、あたしは拒絶していたから。
「でもプライベートの方には登録してないんだ?」
「ああ。あくまで仕事の一環だからな。不用意に巻き込みたくねぇから。色々なものに」
そう前を見据えて運転する早瀬の横顔は厳しくて、なにかひっかかりを感じた。……こうした音楽界の利益が絡んだトラブル、という意味だろうけれど、それ以外にもなにかあるような気もして。
だけど、なぜかそれは聞けなかった。