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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「三芳さん、ちょっと用があるんです! 来てくれませんか!?」
あたしは、早瀬をキッと睨み付けて、俯いて震えている女帝の方に手を回して、庇うようにしてその横を通り過ぎた。
「おい、なんで……」
「うるさい! この女の敵!」
「はあ!?」
あたしは悲しみと怒り心頭で、そのまま女帝をトイレに連れていき、そこで化粧をしている女性に頼み込んで、出て行って貰った。
「大丈夫ですか?」
「出て行ってよ……あんたも!!」
女帝を庇ったはずなのに、両手で顔を隠しながら泣いている女帝はあたしに怒鳴った。
「早瀬さんにこっぴどくふられて、いい気味とか思っているでしょう!!」
「……思ってません」
「嘘よ」
「嘘じゃない。あたし、早瀬と高校同じで……高校時代に早瀬にふられてるんです。優しくされて勝手に勘違いして、こっぴどく手のひら返されました。それ以来、ずっと辛くて辛くてたまらなくて、他に恋も出来なくて。二年前に再会した時は、神様恨みました。早瀬が嫌で嫌でたまらなかった」
「……」
「今、三芳さんの目に仲良く見えても、早瀬の心があたしにあるわけではない。仕事が絡んで優しくされる度、九年前が蘇るんです。そう簡単に、恋していた時の傷は消えてなくならない。おわかりでしょうけど」
「……好きなの? 今も早瀬さんを」
あたしは迷った末に、正直に言った。
「……はい。気づいたのは昨日です。……馬鹿ですよね、あれだけ傷つけられて泣いて暮らしていたのに、また同じ相手を好きになるって。生産性のない恋愛は、あたしの胸だけに留めますので、誰にも言わないで下さいね」
「……言わないの、早瀬さんに」
「言ってまた傷つけられるのが怖いから、言いたくないです。あたしひとり、抱えていればいいだけです。早瀬にはなにも望みませんし、期待も一切しません。三芳さんのように有能で美人でも駄目なのに、あたしでいいわけないのもちゃんとわかってますし。それに……どうやら、あんな男にでも本命がいるようですから」
「……っ」