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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 
 

「実はさっき、自分をダブらせてしまいました。あたしの時はひとりの女性の前でしたけれど、ひとりでも観客が嫌だったのに、あんな沢山の人の前で拒絶されることに、どれだけ三芳さんが辛い思いしているかと思えば……。あたし、本当に辛かったから」

 〝俺には、好きな奴がいるから〟

 我慢していたのに涙が止まらなくなってしまう。

 悲しみに暮れてまた気づく。
 あたしは自分を早瀬の特別だと思いたかったということに。

 馬鹿な柚。

 早瀬の音楽とキスに、あの優しさに、また事実がわからなくなっていたなんて。
 
「なんであんたが泣くのよ」

「ごめんなさい……」

「泣かないでよ、私が泣かせたみたいじゃない」

 そういう三芳さんの声も涙声で。

「ごめんなさい」

「あんたって、本当にお人好しの馬鹿よね」

「ごめんなさい……」

「愛すべき馬鹿だわ!」

 そう言うと、三芳さんはあたしを抱きしめてきた。

「あんたも、苦しかったんだね。……ごめんね、勝手に妬いて」

「そ、そんな……」

「そっか……早瀬さんとタメなら、高校から……九年来か。私は年下に片想いして三年。フラれて三年。三年でも辛くて、めげずにがんばっていたけど、あんたは九年、痛み抱えていたんだ……」

「……っ」

「ありがとう。フラれても押していけばいつかは必ず振り向いてくれるだろうと、……自業自得に突き進んだ私のために、トラウマぶり返しながらも泣いてくれて。あの三人は遠巻きにしか見ていなかったのに、あんただけは彼を叱って私を助けてくれようとした」

 あまりにも優しい声で、堰を切ったように、あたしは声をあげて泣いてしまった。

 女帝は今まで嫌いだった。
 コミカルな出現とはいえ、いつもあたしを目の敵にしていたから。
 
 なにも話していなかった。
 なにも話そうとしていなかった。

 あたし自ら、理解しあう言葉を拒絶していた。

 素直な言葉を出したら、こんなにも女帝は優しくて。

 女帝の傷に、あたしも共鳴して。
 あたしの傷に女帝も共鳴して。

 早瀬に対する、この複雑でやり場のない想いが少しだけ報われた気がした。

 理解の言葉を待っているだけでは駄目だね。
 自分から理解しようと動かなきゃ。


 
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