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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 

 昨日のあたしの立ち回りのおかげか、今日はやけに皆、あたしを見るとぺこりと頭を下げて、そそくさといなくなる。

 今まで頭も下げてくれなかったことを思えば、ちょっぴり進化したかな。

 今日は世界が違って見える。

 藤岡くんは目の周りに凄いクマを作って、ぼぅっとしている。
 企画百本ノック、課長に通したから徹夜でもして必死にやってきたのか。

 早めに来て、珍しく仕事をしている茂、机の上にあるその企画書の山のために、お菓子を置く隙間がないのか、珍しくクッキーとかマドレーヌとかそういうものがない雑多な状態で、企画書を読んでいるようだ。

「藤岡くん、これは酷い。やり直し。明日までにさらに百!」

「ひっ」

 容赦なく茂、斬ってしまったようだ。
 茂、甘いもの食べないとイライラするおデブちゃんだからなあ。
 
 ノート型パソコンの電源を入れると、あたしのバッグの中のスマホが震えた。

 見ると、早瀬からのLINE。

『あのさ、なんで俺がお前に怒られないといけねーの? 俺、お前の気に障ること、なにかした?』

 早瀬が好きな女は誰なんだろう。

――私さ、早瀬さんが好きなのは、あんただと思うわ。

 女帝は帰り際、さっぱりとした顔でそう言った。

――私に気を遣わなくてもいいから。まだ引き摺るかもしれないけど、私、重い女にはなりたくないし、こっぴどくされたから逆にすっきりしたというか。

 あたしが、早瀬の好きな女?

 ありえないよ。
 そんなこと、言われてもいないし。

 なにを根拠にそう思えるというの?
 勘違いしたら痛い目にあった過去があるのに、客観性なんて。

 キスをしたから?
 キスの回数?

 甘々になったけれど、確かにそこは九年前とは違うけれど、そこに意味があるとすれば、ストレートで強引な男がはっきりさせないところが、意味があるのだろうと思うんだ。

 あたしはきっと、愛人に適しているのだろう。

 過去の傷があるから、早瀬に共の未来を求めない。
 金で身体を縛られているのだから、どんな関係かなんてあえてはっきりさせなくてもいい。

 求めれば応じる、使い勝手のいい愛人程度で。
 ……セフレ、ともまた違う。

 本命がいるのなら、そっち抱けばいいのに。
 早く生理が終わらないかなと思ってしまった、昨夜をやり直したい。
 
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