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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「ええと、上のエリュシオンに居る者なんですが、実はパソコンが動かなくなってしまったので、斎藤千絵ちゃんを頼ろうと思って……」

 するとその女性は哀しげに微笑んだ。

「斎藤は、退職しました」

「え? 退職!?」

 挨拶もしないまま辞めてしまったことがショックで。

「え、なにがあったんですか?」

「……私事都合だそうです」

 会社が好きだと千絵ちゃんは言っていた。
 なにか、急変した事情があったんだろうか。

 もう千絵ちゃんに会えないのか。
 ずっとお昼、ひとりか……。

「主任、どうしました?」

 その時、奥からスーツ姿の男性が現われた。
 
 艶やかな黒髪に眼鏡。
 理知的な涼やかな美貌。
 凄まじいイケメンだ。

「あ、香月課長。実は上の会社の方のパソコンが動かないそうで」

 香月さんと言うのか。
 これは早瀬といい勝負になりそうだ。

 ただ、早瀬は自由人の感じがするけれど、香月さんは物静かな優等生タイプのようにも思える。早瀬が嫌うITの典型的なインテリタイプだろうな。

 何歳なんだろう。
 とても若い気がするけれど。

「お預かりしてもいいですか?」

「あ、はい」

 香月さんが、渡したパソコンの裏を見ながら尋ねてくる。

「症状は?」

「電源ボタンを押しても起動しないんです」

「電源コードはいつも入ってましたか?」

「はい。ただ前にちょっと外れていたことに気づかないでいたことはありましたが、その後は使えてました」

「使っていてなにか変な音がしたりとかは? ギーとか、カタカタとか」

「いいえ、特には」

「じゃ、ハードは大丈夫かな。念のため、データー抜き出した方がいいですよね、お仕事に支障あるでしょうから」

「はい、是非お願いします!」

「課長、大丈夫そうですか?」

「中を見ていないからなんとも言えませんが、多分大丈夫だと思います。恐らくバッテリーの類いで電源がつかないだけだと思うので。データも問題なくコピー出来るかと」

 にこりとした……だけど営業用だとはっきりわかる、涼やかな笑顔。

 ……あたしも早瀬でイケメン耐性がついているようで、くらりとはするけど、倒れるほどまでにはいかない。

 なんなの、このビル。
 上の忍月コーポレーションの宮坂専務といい、イケメン率が高すぎる。
 
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