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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「課長は杏奈とプログラムを組んでお忙しいでしょう。あたしが……」
「私は大丈夫です。あなたはあなたの仕事を」
この課長さんの、彼女を見る眼差しが優しい。
相当気を許しているのかしら。
「……わかりました」
女性は頷いて、あたしの方を見た。
「出来るだけ早く復旧させ、終わったらお持ちします。ええと、お名前……」
「上原と言います。企画事業部の育成課でチーフをしてます。受付に言って下されば……」
「わかりました、上原チーフですね。あたしは、斎藤の上司であったWEB部主任をしております、鹿沼と言います。あ、こちらはあたしの上司である課長の香月です。上原さんのPC、責任持って承ります」
ふたりは揃って頭を下げたため、あたしもつられるようにして頭を下げた。
「あ、失礼ですが代金はどれくらいなのでしょうか。見当がつかないので、それまでにATMで下ろして用意しておきますので」
鹿沼さんは香月課長と顔を見合わせ、課長が頷き彼女も頷いた。
「然程作業も必要ないと思いますので、こちらの件は無償で」
「え、でも……」
「実は今までも何人か、このビルの中の方が焦って飛び込んでらっしゃいます。同じビルに勤める者同士の、友情価格と思って下されば」
「……しかしっ」
「では。もしも私達が困ったことが出てきたら、相談に乗って下さい」
鹿沼さんも香月さんも優しく笑う。
いやいや、ITがうちを必要とすることはないでしょう?