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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「困った時にうちを思い出して下さっただけで、今のあたし達はとても嬉しいんです。あたし達は信用第一でいきたいと思っていますので、パソコントラブルだけではなく、パソコンに関するもの全般に、なにかあればまた来て下さいね」

 鹿沼さんの言葉にほろりとしてしまう。

 鹿沼さんは可愛いだけじゃない。
 きっと仕事が出来るひとなんだろう。
 言葉尻から頼もしさを感じられ、安心する。

 そして香月さんといい、困ってるひとを少しでも早く助けてあげようという善意が、ひしひしと感じられた。

 うちのように、相手がなにを望んでいるのかどうでもよく思い、ただ自分のところの利潤を追い求める会社ではないのだろう。

 信用第一……。

 あたしも、そんな会社に居たかった。
 昔のエリュシオンはそれに近かったのに。

「大丈夫ですよ、ご安心下さい」

 鹿沼さんはなにを勘違いしたのか、励ましてくれた。

「ご機嫌斜めの上原さんのパソコンに、ちゃんと喝入れておきますから」

 温かいひとだ。

 千絵ちゃんはいつも言っていた。
 主任がとてもいいひとで、会社になくてはならない存在だと。
 彼女が頑張る限り、会社は倒れない……と。

 いいなあ、頼られるひとは。
 会社になくてはならない存在なんて、羨ましいなあ。


 同じビルにいるのに、鹿沼さんを雲の上のひとのように感じながら、あたしは手を振る笑顔の鹿沼さんと、にこやかな笑顔を向ける香月さんを背にした。

 ……そして二時間後に復旧しただけではなく、動きが格段に速くなってレベルアップしていたパソコンと、データをDVDに外部保存してくれたその素早さと鮮やかさに、誰がなんと言おうと、IT従事者は神様のように凄いと絶賛せずにはいられなかった。

 もしシークレットムーンが頼ってきたら、あたしが先頭に立ってなにかしてあげたいと、そう固く心に誓った。

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