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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
茂もまた会議に呼ばれてしまったため、報告書は茂に直接渡した方が無難だということを、経験からわかりきっているあたしは、印刷までしておいて、茂の帰りを待つことにした。
午前中は電話がかかってきたりして、色々と忙しい。
また、育成課としても色々と人材を育ててプロダクションなどに推薦していかないといけないから、今在る育成人材を育てて終わりではなく、次々にリストアップされるものから選んで会議にかけたり、企画を出したりと下準備が大変だ。
エリュシオンという会社は、創立三十周年を迎える。
朝霞さん達は、資料を持たないで出ていったために、彼らとやってきた資料はまだ資料庫に残っている。
あたしの机の上に、参照していた過去のファイルが山積みになってしまったので、山に抱えて資料庫へと赴いた。
「持ちすぎたわ……」
資料庫は上のフロアにあるため、慎重に歩いて資料庫に入る。
資料庫を自動ドアにしようと提案したひとに、ちゅーしたい。
両手が塞がっていても、難なく資料庫の中に入ることが出来た。
資料庫は図書館のように棚が平行に四つおかれて、さらに部屋の周囲を取り囲むように棚が置かれてある。
棚のでっぱりにファイルを乗せて、アセアセとして元あった場所に戻す。
「あ、あれ……」
探していたファイルが一番上の棚にあり、背伸びしたが僅か一センチ届かない。ここには踏み台がないため、棚をよじ登るくらいしか出来ない低身長のあたしは、意地になってぴょこんぴょひんと飛び跳ねて、そのファイルを引き出すことに集中して。
「もう少し……いけるか!?」
腕の筋や筋がピキピキしているのを感じながらも、片目を瞑って渾身の力を振り絞るように背伸びをして取りだそうとしていると、そのファイルが自動的に引き出された。
背後に影。
鼻腔に広がるベリームスクの匂い。
難なくファイルを引き出した早瀬が、背後に立っていた。