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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「あ、ありがとう……」

 貰おうと手を伸ばしたが、そのファイルは上に持ち上げられて。

「ちょ、なに……っ」

「なんで無視?」

 冷ややかな声が落とされる。

「怒ってる理由を聞かせろと言っているのに、既読すらつかなくなった。なに、電源切ったわけ?」

 ……LINEの既読機能って嫌いだ。

「イライラして休憩飛出してみれば、お前がいねぇ。俺と隠れんぼでもしてるつもりか? どこに逃げ隠れするつもりだ、お前」

 美しい顔は、残忍な凶器だ。

「たまたまです! あたしは……、パソコンが動かなくなって……っ」

「ふぅん?」

 まるで信じていない様子の早瀬は、そのまま頭を棚にぶつけるようにして、腕を組む。

「だから、パソコンが動かなくなったから下に「怒ったのはなぜ?」」

 ……怒ったのはあたしだというのに、今とても怒っているのは早瀬だ。

「言えよ、怒らないから」

 嘘だ。もう怒ってるじゃない。

「し、仕事があるんで、失礼」

 くるりと向きを変えようとしたけれど、早瀬の両手が、いわゆる壁ドン……ならぬ棚ドンをして、あたしを閉じ込めてしまう方が先で。

 このドキドキは、ときめきではなく早瀬の怒りに対する怖れだ。

 なんで怒っているのよ、このスケコマシ!!

 ……とは言えないあたしは、ただ逃げ出すことしか考えられず。

「あ!」

 と、天井を指さして、そのまま屈むと、その通せんぼをしている腕の下から抜け出ようとしたが、単純に腕が下がっただけであえなく失敗。

 それでも意固地に逃げようとするあたしを、舌打ちをした早瀬は、きつく抱きしめてきた。
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