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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
「……お前、心底俺を嫌っているよな。俺を見る顔はしかめっ面したすげぇブスなのに、他にはへらへら笑う。少しは俺に媚びて見せろよ」
どの口が言うのよ。
それに媚びてなんかないし。
泣かないために笑ってるだけ。
後部座席の端っこも端っこ、ドアに張り付くようにして、外ばかりみるあたしに、横で……いつものように優雅に長い足を組んでいるのだろう早瀬は、ため息をついたようだ。
話したくありません。
顔も見たくありません。
……こんな、彼の匂いが漂う狭い空間なら特に。
じんじんと古傷が痛んでいること、彼はきっとわからない。
わかって貰いたくもない。
拒絶のオーラを炎のようにめらめらと。
でもね、言わなくちゃいけない言葉があることはわかっている。
「ありがとうございます」
「あ?」
「あたしの意見を通してくれて」
どんな思惑があろうと早瀬がいて口添えしてくれたから、あたしの意見に信憑性が強まったのだ。
あたしひとりの力では、馬鹿にされて怒鳴られて終わりだった。
またあの惨めで悔しい思いをしていたところだった。
「……別に。デモは俺も気にくわなかったし、あの課長はそれ以上に気にくわなかっただけだし」
「でもそのおかげで、あたしのプライドは守られました。本来なら、いつも通りなにひとつ、あたしの意見は通らなかったはずなので」
悔しいくらいに、あたしには力がない。
どんなにプライドを傷つけられ罵られても、是と言われたら是だと従うことしか、あたしには許されていない中、早瀬のおかげであの課長をやりこめ、悠々と外出することが出来たのだ。
……胸がすぅっとしたのは事実だったから。