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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice


 あたしは部屋の隅、早瀬に口を手で塞がれたまま、そのまま早瀬の膝に正面に乗る形となって、共に座っていた。

 こんな格好、見られたらなにを言われるかたまったもんじゃないと暴れるが、逃さないとする男の力にあたしが敵うはずもなく。

 こつ、こつ、という靴音が、びくりとしたあたしの身体を強張らせて、息を詰める。まるで泥棒に入ったところを、家主に見つかりそうになっているが如く。

 寿命が、縮まる……。

「あれ、どこにあるのかな。こっちかしら」

 その声は音響課の早川さんのもののように聞こえた。音響課に必要となりそうな資料と言えば、このすぐ近くじゃなかった!?

 そんなあたしの様子をじっと見ている早瀬に気づかず、不意にふぅぅと吹きかけられた細い息に驚いて、早瀬の手を歯で噛むと、早瀬は短い声を出した。

「何の音?」

 今の隙に、逃げるんだ!!

 我ながら素早く立てたと思ったのだが、それ以上に迅速に動いた早瀬の、伸ばされた長い手が鞭のように絡んで元いた場所へと引き寄せられる。

 それなら痴漢だと叫んでやろうか。

 睨み付け、今まさに声を出そうと唇を薄く開いたあたしに、なんと! この状況で! 早瀬があたしの唇を奪い、ごくごく自然に舌をいやらしく差し込んできたんだ。

「んぅぅぅぅぅ!!」


「ん? こっち?」

 ひぃぃぃぃ!!

 絶体絶命!!
 離れろ、このスケコマシ!!
 
 近づく足音。
 緊張感ないままに、容赦なく口内を蹂躙する早瀬の舌。

 緊張の最中にいるせいか、大音響で反響しているように聞こえるキスの音。

 焦るあたしと、余裕ぶった早瀬。

 口を離そうと顔を振るが、両手でがっしりと後頭部を押さえつけられてしまう。ギンと睨みつけ、噛みついて反撃しようとしたが、それすら見透かされてあっけなくかわされながら、さらに深く激しいキスを(つまり水音が響くキスを)しかけられる。

「ふ……ぅ……っ」

 柔らかく細められたダークブルーの瞳は余裕で、この蕩けるようなキスに声を漏らしては焦りながらまた声を漏らすという、エンドレスになっているあたしを、からかっているような光を宿している。
 
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