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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
逃げる舌は追いかけられ、くちゅくちゅといやらしい音が大きく漏れる。
抱きしめられるような形で激しいキスを甘受するような形となってしまったあたしは、目尻から生理的な涙を流しながら、感じたくないのに、身体の芯が熱く痺れてしまうくらいの気持ちよさに頭がぼぅっとしてきて。
やだ。
こんなところ見られたくない。
そう思うのに、ベリームスクの匂いに閉じ込められると、早瀬だけしか考えられなくなる。
本命がいるのに。
あたしのこと、好きじゃないくせに。
「ん……」
口から漏れるのは、意志に反した悦びの声。
そんなあたしを見て、早瀬の目がさらに柔らかく細められて、舌の動きがねっとりと、あたしの舌をなぶるようなものに変わった。
声がして、はっと我に返る。
「何の音よ……」
ばれる――。
「雨漏り? それともえっちなこと、ここでしてるとか?」
ひぃぃぃぃ!!
雨漏りです、雨漏りです!!
しかし早瀬のキスは、あたしの声を反映したかのように『豪雨』の如く激しくなるばかりで、だからそっちじゃないってと焦るあたしの攻防戦は続いて。
来る。
こっちに来るよ、あの靴音!!
あたし、お嫁に行けなくなっちゃうよ!!
RRRRR。
鳴り響く電子音は、あたし達のものではなく。
「はい、早川ですが」
神の采配に、涙がほろり。
神様、ありがとう。
「いつもお世話になっております。はい、例の件ですね?」
声と足音は、急いたようにして遠ざかる。
やがて離された唇から、大量の酸素を体内に運んだ。
酸欠と精神的にくらくらとして倒れそうになる早瀬の両腕があたしを抱きしめ、そのまま抱き合う形となったが、
「お前、見られると興奮するの?」
揶揄するような眼差しと声に、抵抗する力がなくなってしまっているあたしは、負けじと目に力だけは入れて睨み付ける。