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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「なに、誘ってるの、その目」

「違うわ!」

「あはははは」

 なに嬉しそうに笑っているんだ、このスケコマシ!

「本命がいるんだから、キスをしないでって言ったでしょ!?」

 途端に早瀬の顔から笑みが消え、その切れ長の目が苛立たしげに細められる。

「だからなんでお前がそんなこと言うんだよ。それにさっき言ってた牽制って何だよ」

「あなたが、しっかりとあたしを見て、本命がいると言ったことよ!!」

 傷口が抉られる。

「だからなんでそれが牽制なんだよ」

 あたしの心知らず、段々と早瀬の声が荒げられてくる。

「キスしたからって自惚れるな、お前は愛人止まりだ、この身の程知らず……って言ってたんでしょう!?」

 ……ちょっと盛っちゃったけど、嘘ではない。
 言ってから、凹んだ。

「いつ俺がそんなこと言ったよ!」

「目で!」

「はあああ!?」

「はあああ!?じゃないわよ、このスケコマシ!! 女の敵!! 本命がいるくせに、あっちもこっちも思わせぶりで……離せったら……!!」

「嫌だね。俺、言っただろう!? スマホも見せただろう!? 遊んでいる女もいねぇし、お前に誤解されるような女もいねぇ!!」

「へー」

 早瀬は舌打ちする。

「なんでお前に誤解されねぇように、きっぱりと三芳をフッたのに、お前に誤解されてるんだよ。しかもなんで、愛人とか女の敵とまでになってるんだよ」

「知らないわよ、そんなの自分の胸に聞いてみたらいいじゃない!! スマホだってね、本命をプライベート用に入れてなかっただけでしょう!?」

「じゃあ仕事用の見ろよ!!」

 怒る早瀬がポケットの中から、仕事用のものを出した。

「アドレスから発信履歴から、すべて見てから言え!! もしなんなら電話していいぞ、片っ端から」

 突き出されるスマホは、まるで黄門様の印籠のようだ。

「いらないわよ、暗記してたら公衆電話だってかけられるじゃない!!」

「ああ言えばこう言う。じゃあどうすれば俺は、身の潔白を証明出来るんだよ!? ここで泣いてお前に土下座でもすればいいのか!?」

「なによそれ、開き直るな、馬鹿!!」

 口から出る言葉は止まらない。
 
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