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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
  

「馬鹿はお前だろ!? 俺、そこまでわかりにくいか!? 十七のガキにもばれるくらいなのに、どうして肝心のお前はわかんねぇんだよ」

「なんであたしが怒られるの!?」

「だってそうだろ!? お前、〝嫌わないで〟〝キスをして〟って、俺に言ったの忘れたのか!?」

「うう……やめてやめて! どうして今そんなこと言うのよ、もうそれ忘れてよっ!」

 両耳を手で押さえて真っ赤な顔をぶんぶんと横に振ると、早瀬が両手首をとって耳から離した。

「誰が忘れるかよ、ようやく……前に進めると思った男心を弄ぶような悪女の台詞を吐くな!」

「わけわかんない! なんであたしが悪女なのよ、スケコマシ!」

「だから、俺がいつ女を弄んだよ!」

「弄んだでしょう!?」

「弄んでねぇ!」

「九年前、あたしを弄んだんじゃないの!!」

「……っ!!」

「今もかもね。女帝だってそうじゃない。その気にさせて懐いたら、こっぴどく手のひら返して。あたしが簡単にキスを受けるようになったから、牽制をしたんでしょう!?」

「違う!!」

「嘘だ!!」

「嘘じゃねぇよ!! 九年前は……っ」

 そして早瀬は言い淀むと、苦しそうに眉間に皺を寄せ、顔をそむけた。

「……理由が、あったんだよ」

 ぼそっと、なにかを吐き出すように。

「どんな」

「……っ、言い訳になるから言いたくねぇ」

「言ってよ」

 聞いても仕方がないのに、早瀬をそんな顔をさせるものがなんなのか気になって。

「これは言いたくねぇ。すべてが言い訳になるのが嫌なんだ」

「自己完結しないでよ。あたしがどんな思いで……っ」

「お前をそうやって傷つけた罪をきちんと背負いてぇんだよ。だから、本当に言いたかった言葉も呑み込んでるじゃねぇか。……今でも喉元に出てくる言葉を、必死に飲み下している」

「………」

「前にも言ったけど、九年前のことを許せとは言わねぇ。言う資格もねぇ。だけど……その上で、今の俺を信じて貰えねぇか? 昔が最低であっても、今はそれよりマシになったかもと、思って貰えね?」

 早瀬の顔は、やるせなさそうな笑みが浮いていた。
 
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