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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「大体他に本命いたら、お前に手を出さねぇから。何度もお前を抱きたいと思わねぇから。思春期のガキみてぇに、いつでも盛ることもねぇだろう。お前だから、俺は格好悪いところ晒しながら、追いかけてる」
「……っ」
「これが、今の精一杯の言葉だけど、まだ言葉が必要?」
あたしも一杯一杯で。
無性に泣きたくなって、抱きつきたくなって。
「返事がねぇってことは、必要なんだな……」
早瀬と音楽室で会ったこと。
早瀬を好きになったこと。
初めて肌を重ねたこと。
フラれて哀しかったこと。
辛くて、息が出来なかったこと。
もう会いたくないと思っていたのに、同じ会社に勤めるようになってしまった時の動揺。
性処理として抱かれることの屈辱と悲憤。
だけど嫌えない自分。
強引だけど優しさに惹かれて、好きだと思ってしまった自分。
色々な想いが複雑に胸の中に渦巻いて絡み合い、すっきりとした感情が生じない。それどころか熱い……さらになにかの感情がわき上がって、熱くて苦しくてたまらない。
早瀬を信じたい。だけど信じられない。
早瀬の音楽は信じられるのに、どうして早瀬の言葉を信じられないの。
あたしはなにがしたいの。
早瀬の感情なんか必要ない、ただ自分で思っているだけだと女帝にそう言ったくせに、早瀬の本心はどこにあるのか、あたしが信じられるものなのか知りたいと思ってしまう。
「……柚。今の俺を信じて?」
ぎゅっと腕に力を込められた。
「……なにか言えよ」
「……っ」
「ん?」
「そ、そういうのが思わせぶりなのよ」
やけに鼓動が早くて、あたしの声からは上擦ってひっくり返った……可愛くない言葉しか出てこない。
警戒心と理性が警鐘を鳴らしている。
怖い、怖い。
心の中の葛藤が激しくて。