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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「う、自惚れたらどうする……」
「いいよ」
早瀬の手があたしの後頭部を撫でた。
「思いきり自惚れてくれ」
「……っ」
ドキドキがとまらなかった。
呼吸するのも忘れてしまうほどに、感情の膨大が加速する。
だけど九年前のことがあたしのブレーキとなる。
「俺が色々噂をたてられているのは知ってる。正直、エリュシオンに来るまでは、一夜限りの女はいたよ、俺も男だから神様のように性欲無くすことが出来ねぇから。だけどここ二年、お前に再会してから俺は、お前しか抱いてねぇ。だからお前の目に映る今の俺は、本気に女の影はねぇんだ」
「………」
「それと、今まで俺の車に女を乗せたこともねぇ。女とふたりで食事をしたこともねぇし、せがまれても女のためにピアノ弾いたり、音楽を演奏することもねぇよ。酒飲んだ女が倒れても、俺は介抱しねぇで誰かに頼む」
「……っ」
「俺だって、女に気を持たせる素振りはしねぇようにしてる。誰彼構わず、そんなことはしねぇよ」
軽く笑いながら、早瀬は手を緩めて、あたしとの間に僅かな距離を作って、あたしの唇を指で撫でた。
「俺、今まででキスしたの……九年前のお前とだけなんだよ」
「え……」
「ファーストもセカンドも、お前とだから」
「………」
「………」
「……なにか反応しろ、こら」
「いやいやいや、してたでしょうが!! 九年前」
すると早瀬は苦笑した。
「してねぇよ」
「嘘つき! あたし見たもの!」
「だからしてねぇんだって」
「してた! 絶対してた!」
「……してるふり。こうやって頬に手を添えて、こう。で、こっちからの角度なら、指に唇あててるのわからねぇだろ?」
「……な、なんで!?」
途端に早瀬は黙ってしまう。
「それが本当なら、別にそんなことをして、あたしを突き放さなくたってよかったじゃない。あたしに、〝飽きた〟のひと言を言えば、それだけですんだはずでしょう!? なんで……」