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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
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午後五時――。
あたしが早瀬に望んでいたのは、言葉なんだろうか。
あたしは、どんな言葉が欲しいのだろう。
九年前のことを謝罪されても困るし、じゃあなにが欲しいのかと言えば、早瀬の言葉を信じる根拠となる言葉、なのかもしれない。
音楽家としての早瀬須王は尊敬しているし、その言葉には疑うことはないのだけれど、過去に遡るあたしの傷に関係するもの全般に、あたしは疑心暗鬼なのかもしれない。
カタ、カタ、カタ……。
パソコンは快調、さすがIT。
パソコンのことはさっぱりわからず、チーフになってようやくチーフ以上の部長クラスまで共有してファイルを閲覧出来るネットワークフォルダーというものの便利さはわかったけれど、教えられたもの以外を進んでどうこうしたいという欲求もなく、ただびくびくと使っている感じだ。
シークレットムーンの香月さんがパソコンをレベルアップしてくれて、鹿沼さんが喝を入れてくれても、元気になったパソコンを使いこなすことが出来ないのが、申し訳ない。
キーボード入力は早くはないけれど、両手でなんとか入力出来るようになった現在、いまだ誤字脱字が多く、入力してからのチェック作業もまた大変だ。
画面と睨めっこしながら、共有フォルダに入れて誰でも閲覧出来るような企画資料を作っていると、ぽんと肩を叩かれた。
「柚。帰り、お茶しない?」
……女帝だ。
顔を見ずに、なにか喧嘩をふっかけられているような気分がしないでもないけれど、いつもあたしに嫌味たらたら敵視びんびんだった女帝のこのお誘いに驚いたのは、あたし以上に周囲だったらしい。
早瀬が会食に行くために、早めに終わったらしい会議室から、わらわらとひとが出てきており、その中には女帝腰巾着三人衆のうちふたりもいた。
この珍妙な……意図があるに違いないだろう場面に驚愕しつつ、ふたりはにやにやと意地悪な笑いを浮かべて、あたしと女帝の元に来た。
「本当に無能は手間がかかりますよねー」
などという声に、即座に反応したのは女帝で。
「ええ、無能なひとほど、窮地に立たされている仲間に、手を差し伸べる度胸も思いやりもありませんこと、よく学びましたわ」
やたら笑顔の女帝の前で、会議で疲れ切っていたふたりの顔から、さぁぁぁっと血の気が引いた。