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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 そこで始まったのが、女帝が語る華々しい恋の遍歴。
 それをじっと聞いていた裕貴くんは、フォークに刺したキャラメル味のケーキを口に運んで、美味しそうに食べると、ひと言。

――あんた、り……須王さん狙ってふられただろ。

――そりゃあ、あのひとが嫌いそうな典型的なタイプな気がする。

――あのひとだけじゃないな、あんたいつも男に逃げられるだろ。

 そう言ったら、女帝は怒るどころか身を乗り出して、裕貴くんに助言を求めたため、女帝の恋愛相談室となってしまった。

 あたしに相談されるより、きっと裕貴くんの方が的確なアドバイスが出来そうだ。

「あんた、自分が連れ歩く男のスペックの範疇をまず頭で考えてから動いて、それで一目惚れだとかいうタイプだろ」

 ストレートに切り込む裕貴くんの言葉に、女帝は返す言葉もないようだ。

「そういうの、男はすぐわかるから。わからねぇのは、恋愛経験がねぇ童貞だけ。わかっててそれに乗るのは、ヤリ目的!」

「そ、そうなの……?」

「あんたが計算高いのと同じく、あんたも見てくれはいいようだから、そういうのを利用しようとする無駄に顔だけいい男もいるんだ。そういうのばかりあんたが引っかけるから、いつもヤったらすぐさようならなんだよ。運命の恋とか言ってる暇に、まずあんたのその色眼鏡を外すこと!」

「……」

「あのり……須王さんは、めちゃくちゃハイスペック過ぎるんだよ。特殊中の特殊の神様みたいなもんなの! それと自分は釣り合うなどと思うから、フラれるんだよ! ……で、柚もそこで傷つかない! 俺が怒られるから!」 

 なにか忙しい裕貴くん、お兄さんかお父さんみたいだ。

「ところで、あんたは柚の友達なの?」

「そうよ、今頃気づいたの?」

 友達という響きに、ちょっとあたしはぽっとしてしまった。
 
「うわぁ、またあのひと、厄介な事態になってるんだ」

「どういう意味?」

「あ、こっちの話だよ、柚。よかったね、友達か。……友達ね、うん、須王さんにフラれて結束ができたような、めちゃくちゃ複雑そうな関係の友達だけど、出来てよかったね」

 途中早くて聞き取れなかったけれど、裕貴くんに褒められたことは素直に嬉しくて。

「ありがとう、裕貴くん」
 
 そう笑ったら、複雑極まりない微妙な顔をしていた裕貴くんとは違い、女帝は満足げに笑っていた。
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