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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
誰よりも驚いたのは、静かに傍観していた裕貴くんだった。
「ええええ!? おばさん、三芳!? 三芳史人の母親かなにか!?」
「おばさんじゃない……でしょう? どこがお母さんなのかなぁ、独身女性に向かって」
女帝はにっこりと笑いながら、目で睨み付けている。
「私は、史人の母ではなく姉よ?」
「ああ……なんとなく。自己中で高飛車なところが、父親譲りで……」
「なんですって!?」
途端に女帝の目がギンと吊り上がった。
大きく見える目だから、迫力あって怖い。
裕貴くんも怯えているようだ。
「金ばらまけば誰でも言いなりになると思ってる、あんな最低な奴らと一緒にしないで貰いたいわね! ……って、おほほほ」
……意外。
女帝は、あの親子と折り合いがよくないんだ。
ということは、昨日三芳社長が違約金だなんだと騒いで、女帝と共に応接室に行ったのは、共謀していたからではなくて本当に諫めていたのか。
つまり、早瀬にした謝罪は、計算ではない……と。
「はははは。なんだか手厳しいなあ」
朝霞さんは笑う。
早瀬曰く、朝霞さんも相当あくどいことをしてオリンピアを大きくしているということだが、まるでそんな様子には見えない。
とにかく爽やかだ。
だけど笑い続けているのが、なにか胡散臭くも感じる。
その時、やけに無表情な男性店員さんが来て、朝霞さんの前にケーキを置いていく。ひと皿にひとつ乗っている正方形のケーキが、ひとつではない。
「二、三……うわ、おじさん四つも食うわけ?」
「ああ。迷ったから、全部にした。どうだい、きみ達も食べるかい?」
「いらねーよ。これだから金持ってる大人は」
「ははは。上原は食べるだろう?」
「え、あたしは……」
「お前が好きなベリーだ。やるよ」
ああ、これ……迷った奴だ。
「遠慮しないで」
え、貰えるのなら……。
すると裕貴くんが立ち上がると、あたしの前に置かれた皿を奪うようにして言った。
「柚、太るから駄目! カロリー過多!」
「えー」