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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「えーじゃない。ぶくぶくのうさ子になってもいいのか?」
「……うさ子?」
裕貴くんは女帝の疑問の声を無視をした。
「じゃ、そういうわけで俺達帰るから。頑張れ、おばさん」
強制終了した裕貴くんの顔が警戒のものとなっている――。
有無を言わせない目力に促されるようにして、あたしも席を立つ。
「誰がおばさん……まあいいわ。朝霞さん、一緒にケーキを……」
女帝が朗らかに朝霞さんに声をかけた、その時――。
「……行くな」
朝霞さんが恐ろしく低い声を出した。
「座ってろ」
「え?」
「いいから、早く座れ!!」
朝霞さんが怒鳴った瞬間――。
バアアアアアン!!
大通に面している窓ガラスが割れて、破片が飛んだ。
あたし達の席は真ん中とは言え、破片が宝石のようにきらきらとしてあたしの方に向かっているのを、ただ呆然と見ているしか出来なくて。
「柚、しゃがんで!!」
裕貴くんの声は聞こえているけれど、金縛りになったようにして身体が動かなくて。
「馬鹿っ!!」
破片があたしに届く寸前、女帝があたしを抱きしめるようにして破片からあたしを守った。
「奈緒さん!?」
「……大丈夫よ。あんた反応遅すぎ!」
そう怒る女帝の背後から、サングラスをかけた黒服の男達が入って来た。
「潜れ!」
朝霞さんの力で、テーブルの下に、女二人押しやられた。
カツ、カツ、カツ。
靴音が響き、ざわめきがバアアアンという、耳をつんざく音によって消え、悲鳴もさらにバアアンという二回目の音によってかき消される。
カツ、カツ、カツ。
ゆったりとした靴音なのに、動くことが出来ないくらいに威圧感があって。
一体誰がなんのためにとか、あのバアアアンはなんの音かとか、忙しい疑問が頭にぐるぐると回る中、身をずらして見た……靴音の正体は、黒服の男で。
その男が不意に横顔を見せた。
サングラスをしたその男の顔が、あたしの中の記憶を刺激して。
チカチカと警告のランプが点灯している。
男は手に、拳銃のようなものを持っていて、静まりかえった店内でなにかを探しているようだ。
その時、つんつんとあたしの服が引かれて。
〝ゆず、おばさんとおれについてきて〟
いつの間にか一緒にしゃがんだ裕貴くんがそう口を動かし、顎で促した。