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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

 裕貴くんが猫を抱えて、近くに見えた動物病院に連れて行く。

 女医さんが診察してくれると、ふぐの中毒にも似て神経と筋肉の両方に麻痺をおこし、呼吸ができにくくなっているものの、点滴すれば命に別状もないし、発見が早かったために後遺症も出ないだろうということ。

 後にしながら、犠牲にしてしまった猫ちゃんに詫びて、皆で揃って頭を下げた。

 猫には申し訳ないことをしたが、女医さんの手で元気になって貰おう。


「ところで裕貴、なんで朝霞さんが怪しいと?」

「あの朝霞って奴がちらちらと窓の外を見てて。そしたら車が停まって出てきた男が拳銃を構えて。ケーキもやけに柚に勧めていたし」

 全然、気づかなかった。

「柚、あんた朝霞さんに恨まれるようなことしたの!?」

「まったく、身に覚えがない。ねぇ、朝霞さんがそんなものを入れる時間はなかったんじゃ?」

 店員が置いたのをすぐあたしに勧めたのだから。

「まあ、朝霞は本当は知らなくて、店側に毒を入れた犯人がいたかもしれない可能性はあるよ」

 あの店員、やけに無表情だった気はするけれど。

「だけど、裏で示し合わせていた可能性だってある」

「……っ」

「はぁ……。須王さんの予想は大当たりということか。まさか拳銃が出るとは予想してなかったけど」

「これから、どうしよう」

「とにかく小林さんっていうのと合流だ。柚の家は、先回りされている可能性もあるから、なしで。電話番号聞いているから、小林さんに電話してみる」

 裕貴くん、頼もしい。
 あたしはなにも出来なくて、十七歳の機転に助けられている。

「……あんた、家に寄る用事があったの?」

「あ、うん……。ちょっとね、早瀬のスタジオで避難させて貰うことになってて。それで身の回りのものとか……」

「……。なに、早瀬さん、こうした事態、わかっていたというの?」

「ここまで具体的かはわからないけど……」

「具体的でしょう。裕貴が護衛として機能しているってことは、早瀬さんの指示があったということでしょう?」

「どうなんだろう」

「身の回りっていうのは、下着とか化粧品とか?」

 あたしはこっくりと頷いた。

「だったら、ここならうちが近いから、適当に私のもの見繕って、あんたにあげるわ。家に帰れるようになるまで、それで我慢して貰える?」
 
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