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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 
 
「我慢もなにも……、そんなこと奈緒さんにして貰うことは……」
 
 すると女帝は、気づいたようにポンポンと、自分の身体についたガラスの破片を手で落としながら、言った。

「私ね、父親が成金趣味で、そのせいで金に困らずちやほやされて育ったのよね。弟見てると、昔の自分を思い出してうんざりするんだけど」

「……」

 赤レンガでの彼を思い出す。
 顔はよく見れなかったけれど、うん……ちょっと難ありだったよね。

「そんなんで、金ですべてが解決出来るという環境が当たり前で。周りから女帝とか言われていい気になっててね」

 今でも女帝、だものね。

「だけど目覚めるわけよ、周りは皆、私の肩書き目的だということに。私を見て貰うためには目が小さすぎるから、目を大きくする整形手術をしようとしたら、親父に猛反対されてさ。グレてレディースに入ったこともあったけど、化粧に目覚めてコンプレックスがなくなったのよね」

 ……今さらっと、グレてレディースに入ったこともあるとか言ってなかった? え? 元ヤン?

「金ではなく、己の美貌で世に君臨してやろうと思ったんだけど、早瀬さんを追いかけて、最初で最後の親父の力を借りてエリュシオンに来て。ここで困った時に手を差し伸べてくれるような、そういう……いわゆる友達というものを作ろうとして、あの三人がそうだと思っていたけれど、違った。それがあんただったとは、二年も知らないでいたけどさ」

 女帝はにっと笑った。

「助けられたら助ける。助けられなくても助ける。それが友達でしょう?」

 ああ、なんだろう。

 夜露死苦!

 とか言われている気がするのは。

 裕貴くんの通話が終わったようだ。

「よし、小林さんと連絡ついたよ。近くにいるらしいから、来てくれるって。柚が顔わかっているんだろう?」

「うん。ガテン系の感じのひとだよ」

「ガテン系とあのひとと、なんで繋がりあるんだろう。まあいいや、おばさんどうする?」

「タイマンなら腕が鳴るから、私、柚の護衛につくわ」
 
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