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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
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都内千代田区にある日比谷公園――。
オフィスが建ち並ぶ有楽町や、庁舎や議事堂がある霞ヶ関にほど近い大きな公園は昔から主要な建築物を包含し、今では市政会館や日比谷公会堂、日比谷図書文化館以外にも、大小の野外音楽堂がある。
早瀬に急かされながら共に降り立つと、なにやらたくさんの歌声が聞こえて来た。
「ああ、始まってるな」
早瀬に連れて行かれたのは野外音楽堂、通称野音。
蒼天の元、ステージ上には沢山の男女がマイクを持っていて、ステージの後ろで楽器を演奏しているバッキングに合わせ、ひとつの曲を歌っているようだ。
個性溢れるアレンジが加わったボーカルの主旋律を聴きながら、聴衆は立ち上がって耳に残るサビの部分を一緒に歌っている。
この旋律は、今まであたしがエリュシオンで聴いていたデモの音楽だ。
と、いうことは……。
「デビュー前のインディーズの人気ボーカルにひとつの曲を歌わせている、合同オーディションだ。あのデモの連中とはまた違う。……俺も納得いかねぇよ。あんな程度の取り繕った歌声では、俺の曲が壊れる」
群衆の後ろで立ちながら、早瀬はそんなことをのたまう。
「だったらデモを聞いた時点で、あなたがそう言えばよかったじゃないですか。デモ選びなんか他人にさせずに」
話すまいと思っていたのに、仕事の話に誘導されてついつい尋ねてしまう。
「お前が、俺と同じようにOKをださなかった理由は?」
「……歌によってやけに音楽が歪んで聞こえたり、歌唱力の問題もあります。ボイトレ効果がなかったり。バッキングに負けてたり、とにかく曲とボーカルの相性が悪かったので」
「はは。課題曲でこうなら、HADESのデビュー曲は歌えねぇだろ。今回のコンセプトはミステリアス。あいつらの音は、日が当たりすぎている」
早瀬の言いたいことはわかった。
「はっきりいって顔はどうでもいい。顔よりも声、歌声なんだ。それが誰にも理解されてねぇ」
ひとを魅了できる、得体のしれない影の部分を出したいのだろう。
聞いていて、本能でぞくぞく感じるような。
だがエリュシオンが用意したデモは、添付されたファイルを見る限りにおいて、ビジュアル面がまず重視されている。
つまり音楽に重きを置きたい早瀬のコンセプトに合わないんだ。