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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「嬢ちゃんはなにか疑問はねぇのか?」
「朝霞さん、本当に甘いものが好きで、趣味がスイーツ巡りだったんです、昔も。それにあの喫茶店においてあるケーキは、雑誌とかテレビとかで紹介されている有名なものだから、出没していても構わないんですけど、どうして今日、いつもそんなところでお茶とかしないあたしが寄った時に限って、二年間で初めて寄った店に、それまでお店を訪れなかった朝霞さんが現われたのか、それが不思議といえば不思議です」
「柚、三芳の姉貴とあの店でお茶するって、誰に言ったの?」
あたしは思い出す。
「裕貴くんが行こうと言った時よね。だから、あの時一階にいたのは、あたしと早瀬、女帝、裕貴くんの他にいたのは……美保ちゃん……もうひとりの受付嬢と、あとは女帝にふられて追いかけてきた……あたしと同じチーフふたりと、あたしと同じ育成課で、ふらふらして多分トイレから出てきてすれ違った藤岡くんと、応接室の後片付けをしていた、同じ育成課の水岡さんね」
「だとしたら、そこから朝霞にチクるということは考えられない?」
朝霞さんは、あたし達の後で喫茶店に来たようだから、あたし達が会社を出てからでも朝霞さんに連絡すれば、朝霞さんは来れる。もしも、朝霞さんと繋がる人間が、うちにいた場合――。
「一応皆、オリンピアは嫌っているのよね、旧エリュシオンって。あたしだけが朝霞さんと働いていたし、スパイだって疑われたほどだからねぇ。女帝が来たら、とりあえず腰巾着三人衆はどんな感じか、聞いて見るね」
「……柚って、意外にネーミングセンスいいよね」
「そう?」
「がははははは!」
小林さんが大笑いしたまま、午後七時半すぎに、車は青山に着いた。
「あそこだ。須王の〝要塞〟は」