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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
要塞――なるほど。
大きな青山通りをちょっと奥に入ると、背の高い壁がずっと現われる。
「ここ? 東京の一等地に、すっげー」
裕貴くんと同じ感想を持ったあたしは、窓を下げて……よく聞く芸能人の何億円かの大邸宅にしか思えない、敷地面積を見せつける高壁を見あげた。
「須王のスタジオは、セキュリティーが凄くてな。事前に声紋認証の登録をしていねぇと、あそこに見える……串刺しの刑にでもするのか!と思える、唯一の門を開けることができねぇんだ」
小林さんは笑った。
よじ登ることも難しそうな、空を貫かんばかりの高い槍が並べてあるような正門のところにある小さな機械に、車から降り立った小林さんはなにやら声をかけたようで、そのうちカチャリと音がして門が左右にスライドした。
「さあ、御殿の出現だ」
……もうね、青山になんちゅーお城を築いているのかね、あのひと。
ハデス御殿だね、これは。
これがスタジオなら、自宅はなんなの。
なんなの、あなた。
こんなにお金あるなら、あたしが泣く泣く借りた一千万なんて、凄いちっぽけじゃないの。
色々と思うところがありながら、洋画に出てくる大金持ちの別荘にも見える、白亜の横長の建物を呆然と眺めるしか出来なくて。
「このスタジオは平屋造りでな、スタジオ部分と、居住出来るスペースとゲストルームとが、渡り廊下で繋がっているんだ」
車を停めた小林さんはが指さしたのは、硝子張りの温室みたいな通路。
取り囲んでいるのは、白い花が咲き乱れた花畑の中。
「俺もここには、ライブ前の練習にしか来てねぇけど、すげぇスタジオだよ。これが貰いもんだというから、さらに驚きだけど」
「貰い物!?」
「ああ、須王はこのスタジオが好きで作ったわけじゃないんだ。だから必要な時にしか、ここに来ないらしいが」
もうここに住んじゃえばいいのに。
貰い物って、貢がせものなの!?
パトロン!?
頭の中ハテナマークのまま、あたしは後ろの座席においてあった小林さんが用意していたシンセサイザーと思われるものを肩に担ぎ、ドアが見えるスタジオの入り口の横にある機械で声紋認証をすると、ドアが自動的に開き、中に入った。