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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「いいえ。彼があたし達の席に来た時、店員さんがケーキを四つ持ってきて。その店員さんの無表情さが気になるなと。裕貴くんが猫に試したのは、朝霞さんがケーキに触れていないものなのです」
「だけど、朝霞が裏で、本当の店員かわからないけどそいつと共謀して、の線もありえると思うんだ」
「ただよ、須王。朝霞は銃男が乱入した時、合図はしなかったみたいなんだ。逆に隠すような素振りを見せた。三人でテーブルに潜って、朝霞を残して外に出たところを、待ち構えていた仲間の別の黒服達が、堂々と拉致しようとしていたみたいで」
「その時朝霞は?」
「見てません。追いかけてもきてなくて」
早瀬は考えるような素振りを見せた。
「そんなんで、そんな危機を奈緒さん助けてくれたし、朝霞さんにしても黒服にしても、奈緒さん顔も見られているから」
「……だが、私情を持ち込まれては、足を引っ張る」
早瀬が厳しい目をして拒絶をした時、
「早瀬さん」
女帝が頭を下げた。
「私が告ったことはすべて忘れて下さい。私は、友達を守りたいんです。なんの理由で柚が巻き込まれているのかわからないけど、知ってしまった以上、私は見て見ぬ振りが出来ません」
早瀬は目を細める。
「腕なら、自信があります」
「……なにか習っているのか?」
「自己流ですけど、過去、負け知らずです」
「………」
「……同性のケアも必要でしょうし、雑用でもなんでもOK」
「……ちょっと来い」
早瀬は顎で促すようにして、女帝をドアの外に連れた。
「け、喧嘩にならないといいけど……」
「がはははは。あいつは、〝強い〟というひとの言葉を信じねぇんだよ。俺も試されたよ、どの程度出来るのかって」
試された?
瞬間、バターンとなにかが打ち付けられる音がして。
行こうとするあたしの腕を小林さんは引き留めて、頭を横に振った。
「須王を信じろ」
バターン。
バターン。
「でも……」
バターン。
バターン。
そして、カチャリとドアが開いて、早瀬が入って来た。
「どうだった?」
「……強くはねぇけど、ガッツはある。鍛えようはあるな」
「はは。合格か」
スタジオに行くと、女帝が仰向けに寝転んだまま、悔しそうにバンバンと床に手を叩いていた。