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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「……なんのお話でしょうか。私に思い当たることはありませんので」
早瀬がにやりと笑うと、女帝もにやりと笑った。
女帝に下心があったにせよ、二年も早瀬の秘書のような仕事もしてきた女帝。それにより、早瀬はその仕事ぶりは評価している。
「ここでも会社でも、上原の力になれよ」
「はい、ありがとうございます!」
ハデス御殿に滞在していいと、主の許可が出た。
「柚~っ、私頑張るからね~!!」
「奈緒さん、よかった~っ!!」
両手を合わせて、なぜか女帝とダンスをして喜んでしまうあたし。
女帝は、二年も早瀬に片想いをしてきたんだ。
朝霞さんににこにこはしていたけれど、簡単に恋心はなくなるものではない。しかも、現在進行形で女帝が好きな相手を、あたしもまだ好きだということを知りながら、それでも恋心を白紙に戻して、力になってくれようとしている。
それに裏があるとは、あたしには思えないから。
彼女の素は、まっすぐだとわかっているから。
どうなるかわからないことに巻き込んでしまって悪いと思うけれど、それでもあたしは、同性の友達が出来て嬉しかった。
ずっとひとりは寂しかったから。
「よぉし、じゃあ乾杯しよう、柚」
「奈緒さん、飲めないといつも飲み会で……」
「そんなはずないでしょう!? ザルだと男が寄ってこないのよ」
「いいの、ここでばれて」
「下心は霧散して、もう開き直って行きます!」
「あはははは」
女帝と朗らかに話しながら、隣にある冷蔵庫に入っている缶ビールを持ってこようとすると、早瀬に襟首を掴まれ前に進めない。
「ちょ、なんですか?」
上からあたしを斜めに見下ろす、不遜な早瀬の目が、なにか不満そうだ。
「皆で、乾杯をしようと……」
無言でなにかあたしを詰っているようだ。
「なにかあるのなら、言って……」
「お前も、少しは察しろ」
「は?」
早瀬は苛立ったように、あたしの腰に片手を伸ばして引き寄せると、そのまま歩いて、振り返らずに皆に言った。
「五分後、ミーティングルームで宴会!」
「ちょ、離して……っ、転ぶ……っ!!」
コンパスの差を考えない早瀬に、腰だけはがっしりと固定されているあたしは、よろけるようにして、ミーティングルームに入った。