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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
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「はぁ。なんでああなのかな、あのひと。妬くくらいなら、柚に良い格好するなって話」
「がはははは。女に見向きもしねぇあいつが、嬢ちゃん相手ならあんなになるのか。こりゃあ嬢ちゃん、身体が持たないわ。あいつ、涼しい顔してやるときゃ激しそうだしな」
「え、言うことも出来ねぇ状態なのに、身体の関係はアリなの!?」
「アリだろ。身体から始まるのもあるさ。口で言えなければ、身体で……というのは、大アリだろうさ」
「うわあ、だから大人って……って、ごめん、無神経だったよな」
「……いいよ、気を遣わないで。早瀬さんって、そうなんだ」
「そうらしいよ。どう見てもそうなのに、柚だけが気づかない。気づかないというか、信じようとしてねぇみたい。柚はハナから、世界がひっくり返っても、あのひとに愛されているっていう状況になるのは、ありえないと思っているフシがあって、だから平行線のコント見ている感じ」
「ぶはははは」
「……まあ、柚にトラウマがあるのなら固定観念は消えないわよね。だけど、早瀬さんって……プライベートでは、あんな顔で柚を見てるんだ。いつもクールで感情をあまり出さないと思っていたけど」
「いやいやいや。あのひとはわかりやすいよ、ね、くまのおっさん」
「がはははは。まあそうだよな。あいつは、昔から無理矢理大人になろうとしていたからな。出会った頃のあいつは、なにがなんでも音楽で大成してやると我武者羅で、それ以外は心を見せなかったからなあ。飲んでいても、隙がねぇっていうのか。お偉いさんと会食している感じ?」
「おっさん、友達なんだろ? それでも?」
「俺は友達とか手のかかる弟とか思ってても、あいつはそこまでは気を許してねぇだろうな。まあ、あいつも社会人になって名も売れてきたから、最初の頃に比べれば大分砕けたけどな。あいつは音楽に対しては素直なんだが、それ以外は防護壁を高く厚く頑丈にして、本心を悟られまいとするんだ。このスタジオの外壁のようなものがあいつの心にある。だけどたまに、酒に酔う時があって」