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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
なんなのよ、この王様。
そう思えども、恐らくあたしの気持ちに一番わかってくれるのは、あたしの気持ちをわかっていないために大嫌いだった、早瀬様々で。
そんな複雑な気持ちの中で、早瀬にふられた女帝の気持ちを考えると、隣はどうもとちょっと気が引けてしまうとちょっと足をずらして間を開けると、早瀬があたしの手を奪うように握ってきた。
それを全力で拒否して、早瀬を誕生日席にある王様椅子に全力で押し込んだところに、皆が入って来て、セーフ。
「くく……見られてたら燃えるんだろ?」
「違います!!」
王様椅子で長い足を組みながら、肘掛けに肘をつき、手の上に頬を乗せ斜めに顔を傾けながら、どこからどうみても王子様より支配者にしか見えない主人は、意地悪そうな顔で笑うだけだった。
ミーティングルームという名前の豪華応接室の大きくて重厚な机におかれたのは、小林さんが仕入れてくれた缶ビールとオレンジジュースのペットボトル。
バカラ製のクリスタル皿に載せたおつまみは、チータラと柿ピーとカルパスとビーフジャーキーと、ホタテの耳。
かなり渋いが、一番若い裕貴くんが喜んで食べている。
「だけど小林さんも裕貴くんも、実家暮らしなのに、よくご家族の方……家を空けてここに泊まること許して貰えましたね」
ほろ酔い気分でそう尋ねると、
「ああ、俺は毎年ここに来てるし、嫁が須王のファンだから、電話で須王の声聞かせれば、俺の小遣いも減らそうとするあの金にうるさい嫁が、この通り、いいものを須王に食わせろと万札をくれる。ああ、どれくらいぶりだろう、万札を手にしたの」
小林さんは恐妻家らしい。
「俺も家族の女連中が皆須王さんのファンだから、全員分の名前宛ての色紙を書いて貰うことで、OK。あとで色紙書いてね」
「名前、書くのか?」
「モチ」
「サインだけでよくね?」
「駄目」
「じゃあ上原……」
早瀬からのSOSを却下したのは、ほたての耳をくちゃくちゃしている裕貴くん。
「柚は関係ないだろう? ちゃんと自筆で書いてね。家宝にするから」
……ああ、みみず字の早瀬、どんよりと暗い顔をしている。
あんな字を家宝にされるんだ?