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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
 

「可能性の問題だがな。もしかすると別口のスパイが複数競合している状態かもしれねぇし。ただどちらにしても、上原を監視するために複数の勢力がありえるということだ」

 あたしがなにをしたというんだろう。
 今までそんなことなかったのに。

「全部が今動き出している……として、なんで今かね? 今、会社とかでなにか起こってるの?」

 裕貴くんがチータラを揺らしながら食べている。

「HADESプロジェクトは盗まれたな。それがそのスパイかどうかはわからねぇが」

「俺は逆によかったよ。こんなに早く見て貰えるとは思わなかったし」

「お前……即戦力なければ帰すからな」

「え、見てくれるという話じゃないの?」

「違う。新HADESプロジェクトを打ち立てる。その際、お前にギターをと思ってる」

 裕貴くんは飛び上がる。

「そういう話なの!?」

「そういう話。お前と小林ならいけると思うからな。……三芳、この件は」

「はい、黙っていますので、ご安心を」

 あたしはずっと考えていた。

 今日、いつもと違ったこと。
 あたしが今日、初めてしたこと。

「あたし、パソコンをシークレットムーンに持っていきました。今日初めて」

 皆があたしの方を向く。

「柚のパソコン、凄い情報が入ってるの?」

「ううん、あたしのパソコンはショボいファイルしかないけど、でも共有フォルダでエリュシオンの機密情報はネットワークで見れるわ。それが見れなくなったから、慌てて今日動いたとかは?」

 すると女帝は残念そうな顔をした。

「仮に柚のパソコンから、機密情報を見ていたとして、それはとっくにコピーされていると思うし、柚自身が狙われる意味ないじゃない」

「お前、下でどんな診断を受けたんだ?」

「バッテリーの消耗です。前、電源の線が抜けていたのがわからないままパソコン動かしていたんですが、それでバッテリーが減ったんだろうと。バッテリー自体が劣化しているから、使っていない同じ型のバッテリーと交換してくれました」

「……パソコン、今夏に替えたばかりなのに、柚のパソコンのバッテリー、劣化しているっておかしくない? だって新品で全員入れ替えたのに」

「不良品だったんじゃ……」

 裕貴くんが、真剣な顔であたしを見た。

「柚、交換してくれたところが怪しいとかは?」

「え?」
 
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