この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
 
――すげぇ、お前純正律の音がわかるんだ?

 また昔のことを思い出した。

 この平均律と純正律の話を彼に教えたのはあたしなのだ。

 市販のCDで癒やし系のものは純正律で作られているものが多いから、心が奮えるのだと、そんなことを話したように思う。

 音楽室にはシンセサイザーも置いてあったから、そこでピッチを調節して弾いたり楽譜を書いたりしてみせた。

「音をお前はわかっている。だから探せ。純正律を奏でられる歌声を」

 ……それが祟って、こうして早瀬と仕事をすることになるとは。

「ボーカルの選考は今月末まで、あと十日ぐらいだ。今までにない歌を歌える奴をふたり探して欲しい」

 秋風が髪先を揺らし、沈みかけた陽光が彼の髪を深い蒼に染めた。

「オーディションは大々的に開催を予定しているが、その他お前が偶然見つけた奴でもいい。見つからなければ、企画を潰す」

「潰すって、たくさんのひとと金が動いているのに!」

「それでも、気にくわない雑音を世に出すよりはいい」

 早瀬は音楽に妥協しないのは、昔からだ。
 今はそれがもっと顕著でストイックなまでに厳格だから、やれば成功できるのだろう。なにもビジュアルだけが彼の長所ではない。

 それはわかるけれども――。

「探せ」

 ……荷が重い。
 なんていう役目をあたしに押しつけるんだ。 

「あたし、HADESプロジェクトに無関係なのに……」

「なんのためにデモを選ぶ役目をさせたと思ってるんだ。ただの雑用とでも思ってたのか? お前が能力を見せれば、これを期に、お前をプロジェクトに入れる」

「はああああ!?」

「お前は……自分が選びたいと思わないのか?」

――お前は、自分で音楽を作りたいと思わねぇの?

 九年前の若い早瀬の言葉が蘇る。

「俺の曲に、お前が選んだ歌声を乗せたいと思わねぇのか?」

「別にあたしは……」

「お前は謙虚すぎて消極的なんだよ。生きた音楽に実際携わってプロまで目指していた演者は、エリュシオンでお前だけだ。あとは皆、中途半端な知識しかねぇ。頭から入った奴とお前は違う。お前のセンスに誇りを持て。お前は音を聞き分ける力と、どの音がいいのかわかる力がある。少なくとも俺が信じられる音は、この世で――俺とお前が選ぶ音だけだ」

 痛いくらいの眼差しで奏でられる早瀬の言葉にどきっとする。
 
/1002ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ