この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
 

 ……本当に女泣かせだね。
 九年前なら、喜んでころっと行ってたよ。

 この世で理解しあえるのは、あたしと早瀬だけだって。
 ふたりだけの世界を夢見ていた。

 だけど、これは仕事。
 早瀬の理想に、あたしが必要だったというだけのこと。

 九年前なんて、忘れればいいのにね。
 あたしのことなんか、突き放せばいいのに。
 
 どんな思惑があるのかわからないけれど、

――俺の曲に、お前が選んだ歌声を乗せたいと思わねぇのか?

 早瀬の音は、悔しいけど素敵で称賛出来るから。
 初めて聞いた時、あたしは涙して……早瀬が作ったのだと後で聞き、その才能に驚嘆した。
 
 交わることがないと思っていた、あたしと早瀬。
 交わって出来る、未知数のHADES。

 あたしの力がどこまで役立つかわからないけれど、早瀬に無能だと呆れ返られるまで、頑張ってみようか。

 あたしも、このまま燻りたくない。

「たらたらしねぇで、働けよ?」

 エリュシオンの王様は、斜め上から鼻を鳴らすようにして言う。

「……あたし、いつもたらたらしてやる気無さそうなんですか?」

「やる気の問題じゃねぇよ。やる気なら人一倍あるだろうさ。お前には貪欲さがねぇんだ。言われたことを無難にこなすことばかり考えて、自己表現力が弱い。土台と質はいいのに、これでは宝の持ち腐れだ。そのまま年食って死ぬつもりか」

「……っ」 

「言っただろう? お前のことは、俺が一番にわかっている。誰よりもだ」

 ……不遜な男。

 だけどきっとひとは、彼のこうした揺らぎない超然としたものに惹かれていくのだろう。

 そこまで言われて、個人的感情で逃げるわけにはいかない。
 あたしだって、一度は遠ざかろうとしたとはいえ、元社長に仕込まれた音楽に対する誇りがある。

 至高の音楽を、皆に提供したい。

 そして多分それは、天才音楽家の早瀬なら可能にする――。

――俺の曲に、お前が選んだ歌声を乗せたいと思わねぇのか?

 あたしは伸ばしていた、肩にかかる髪をバッグから取り出したバレッタで止めて、耳を外気にさらした。それが、彼の要求を飲んだ証。

 周囲を見渡せば、立体的に合唱が聞こえてくる。

 爆音が耳にうるさいが、それでも音の聞き分けは出来る。

 さあ、たくさんの音よ。
 あたしに純正律を奏でられる音を導いて――。
/1002ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ