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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「そっか、じゃあそこの会社は大丈夫そうなんだね」
裕貴くんが柿ピーをポリポリ食べながら言う。
あまりに爽快に食べるものだから、一回で大量に食べる小林さんが手を出せば、裕貴くんがぱしんと叩いて独占中。
「ああ。疑ったらどこまでも疑えるが、大丈夫だと思われるところと人物は除外していけ。修理したパソコンに盗聴器はつけられていねぇだろう。もしもありえるとすれば、盗聴器つきのバッテリーをあいつが外した、くらいで。確認となると、うわ、直接会うか……あいつに連絡しねぇといけねぇのか。どっちに転んでも、あいつらの貸しになるのか……?」
庶民大好き柿ピーと無縁の王様が、独りごちては考え込み、苛立ったように銀色の缶ビールを呷る。
「あの、あいつ呼ばわりなんて、やっぱり香月課長と」
「そんな奴、知らねぇよ!!」
……別にいいじゃん、知り合いなら知り合いでも。
なんでそう、あからさまにムキになるのかな。
そんなことされると、香月課長に直接、早瀬のことを知っているか聞いてみたくなるじゃないか。
「しかしなんで、柚がピンポイントで狙われているんだろう。本当に柚? ……と言いたいけど、喫茶店から外に出た時、明らかに柚を拉致しようとしてたし、柚の家の前にいたという車と同じであるのなら、やっぱり柚なんだよな」
裕貴くんが、ため息をつきながら、柿ピーを軽快な音をたてて食べる。
活動量も激しい十七歳、細身の身体はダイエットとは無縁らしい。
「スパイがいるにしても、柚というより会社関係の産業スパイの意味合いを強く感じるのに、そのスパイが暗躍したことによって、黒服か薬物ケーキを持ってきた店員が現われたのだとしたら、やはり柚に繋がっているのかなあ。柚、何者だよ」
「至って普通だけど。特別なものなんか……」
ふと思い出したのは、あたしの家族。
あたしに特別性があるとすれば、それしかない。
それ以外、考えられない。