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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「あの……早瀬さん。もしかして、あたしの家族に関係するとかは?」
思案中の早瀬がゆっくりと目を開いて、あたしに怪訝な顔を向けた。
揺れたダークブルーの瞳が、その可能性を示唆するように、鋭く瞬く。
「お前自身ではなく、お前の家族……か。ありえない話ではないな」
早瀬は軽く頷いた。
「家族?」
裕貴くん、女帝、小林さんがあたしを一斉に見る。
平々凡々極まりないあたしから、あたしが狙われるに至るような特別な家族がいることを想定していないような、胡乱な眼差し。
「なに、家族の誰かが有名人だった、とか?」
裕貴くんの質問に、あたしは笑って言った。
別に、ここにいる人達に隠す必要もないしね。
「うん。あたし以外、有名な音楽家なの」
「音楽家の家族?」
女帝が聞いてくる。
「うん。父が上原雄三、母がオペラ歌手の上原百合子、兄がピアニストの上原雅人、姉がバイオリニストの上原碧で。知ってる?」
皆が無言で固まってる。
「あ、わからないならいいよ。クラシックだから……」
「「「知ってるよ!!!」」」
三人は声を揃えた。
「だって俺、バイオリンをしてたから、同じバイオリニストの上原碧のコンサートに行ったことあるし!」
「上原雅人って、イケメンピアニストで有名じゃない!」
雅兄、イケメンだったっけ? 編集者マジックじゃない?
「おいおい、俺だって知ってるぞ。大御所揃いじゃねぇか。俺の弟子に、上原一家のCDを買っていた奴いたぞ? あれに、嬢ちゃんもいたのか?」
「……あたしは、醜いアヒルの子なんです。あたし以外、才能があるので……きっと、音楽家になれないあたしを家族だと言うのが、恥ずかしいんじゃないでしょうかね。エリート意識がすごくある家族ですし。九年、会っていないから、縁を切られているのだと思います」
あたしから出るのは、乾いた笑い。
それを見て、裕貴くんも女帝も、哀れんだ眼差しを寄越した。