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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「別にあたしは気にしてないから。家を出た時から、覚悟していたことだし」
「須王、お前知ってたのか!? 嬢ちゃんが上原一家の娘だと」
「ああ」
「エリュシオンでそれを言ってれば、柚の立場も違ったのに……」
「いいのよ、奈緒さん。あたしの肩書きを自慢しても、あたし自信の音楽のセンスがあるわけではないから、笑われるだけだし」
「お前はある」
笑うあたしにそう断言したのは、早瀬で。
「あるから、お前にHADESプロジェクトを詳細を伝えないで、俺のコンセプトに合うボーカル探しを頼んだ。センスのねぇ奴に選ばせねぇよ」
「そうだよ、柚! あの須王さんの即興を楽譜に出来る時点の能力は、普通じゃないから! 俺、柚に助けられたんだからな!」
「ありがとう」
なんだか面映ゆい。
「……ねぇ、エリュシオンの連中、あんたをわかっていないっていうの、かなりの痛手よね」
女帝までもが擁護する。
「正直今までの私は、二階での噂……なんの根拠があって上司の命令に逆らっているのかと思ったわ。自惚れもいいところだってね。それが早瀬さんと行動を共にするようになって、早瀬さんはあんたの色仕掛けに騙されたのだと思った」
「はは……」
「私はあんたと関わった仕事はしていないけれど、あんたは音楽家一家で育ち、純粋培養された音楽のセンスを、早瀬さんに認められていたんだね」
「そうさ、柚は絶対音感の持ち主なんだぞ。怪我さえなければ、ピアニストになっていたと思う、俺絶対!」
「怪我?」
女帝が訝しげな表情を向けてくるから、あたしは両手の指を開いて指を動かして見た。
「両手指が動かなくなったの。だから、あたしは上原家の落ちこぼれなの」
女帝はあたしを抱きしめた。
「辛かったね……」
「……っ」
「私も、はみ出し者だったからさ。まあ周りが低俗なのに嫌気がさしたわけだけれど。母親も金の亡者だから」
ぽんぽんと背中を叩く女帝の手が優しくて。
「それでも、家族に悩むのはきっとあたし達だけじゃない。悩んでいるひとほど、家族に傷ついたあんたを理解したいと思ってくれるから、自分はひとりじゃないと、別に低脳なわけじゃないと、強く生きなよ?」
「うん……ありがとう」
鼻を啜りながら笑って見せると、女帝も笑った。