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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
ふと、視界に早瀬が目に入った。
早瀬はなにか苦しそうな顔をしながら、片手で持っている缶ビールを大きく呷って空にすると、テーブルに手を伸ばし、もう一本の缶ビールのプルタブを開けている。
「おい、ペース速いぞ、お前」
「いいんだよ」
「〝柚〟は、いるだろ?」
小林さんの一声に、早瀬はため息をつくと、空けたばかりの缶をテーブルに置いた。
「あたしが、なんですか?」
「がはははは、こっちの話だ。こいつに喝入れる呪文のようなものだから、気にしないでくれ」
「はぁ……」
「嬢ちゃんが上原家の娘だから狙われている、と断定するのもちょっと厳しいな。嬢ちゃんが娘だと公にされていない上に、離れて暮らしているのに、わざわざ嬢ちゃんを人質にとってどうこうするのに、効果がそこまであるのか、というところが正直な疑問だ」
確かに。
父さんや母さんにダメージを与えたいのなら、雅兄や碧姉を拉致した方がよほど効果的だ。こんな絶縁状態の娘を誘拐するより。
「嬢ちゃんが上原一家の娘だと知っているのは多いのか?」
「はい。地元も皆知ってますし、家を出てからは従兄とそのお母さんが」
「そこから漏れたのかなあ」
裕貴くんが伸びをした。
「しかしなんで朝霞が、須王のプロジェクトを横取りしないといけなかったのかも、謎だよな。音楽業界では盗作はかなりナーバスな問題だろうし、大体須王に喧嘩売ってただですまんだろうに」
小林さんの言葉に、皆が頷いた。
「須王を朝霞の会社に引き込もうとするにしても、方法が、なあ。そこそこ経験値をつけた会社の社長であるのなら、リスクが高すぎる」
小林さんの言うとおりだ。
仮に朝霞さんがあたしを狙う勢力となにか関係があっても、早瀬にも、早瀬のプロジェクトにも、関係ないはずだ。
「そういえば奈緒さん。HADESプロジェクトにお父さまが違約金を訴えた話、どうなったんですか?」